「分会廃止」の大刷新とデジタル活用。高齢化と組合員減少に立ち向かう神戸市従業員労働組合 教育支部のハイブリッド改革

神戸市従業員労働組合 教育支部の古谷副支部長に労働組合の課題解決から、組合活動で注力した取り組みや成果などの組合活動に従事された振り返りを幅広く聞かせていただきました。いただきました。

目次

組織概要と自己紹介

— 組織の概要について

古谷:私の所属する神戸市従業員労働組合は、戦後直後の1945年に誕生し、81年の歴史を歩んできました。全体で約1,600名が加入する大きな組織ですが、その中に9つの支部があります。

そのうちの1つが、私たちの教育支部です。私たちは、学校や公民館といった教育現場で働く労務職員で構成されており、現在の支部員数は約340名です。具体的には、一般的に「用務員さん」と呼ばれる学校の管理員、学校給食を作る調理士、研修センターや公民館などの管理員、そして教育に関する運転手など、多岐にわたる職種が力を合わせて現場を支えています。
1995年の阪神淡路大震災の際には、組合総出で学校の復旧・復興に全力を尽くしました。しかし震災以降、市の財政状況が厳しくなったことや、全国的な民間委託化の流れが強まったことで、私たちの組織を取り巻く環境は一変していくことになります。

— 自己紹介

古谷:私自身は、ちょうど阪神淡路大震災の前年、1994年4月に採用されました。職種は給食の調理士です。採用されてすぐにあの震災を経験するという、今思えば激動のタイミングでのスタートでした。

現在は、教育支部の副支部長を務めています。うちの支部は専従役員を抱えるほどの資金力がありませんので、私を含め役員8名と事務員1名の計9名の役員全員が、日中の通常業務を終えたあとに組合活動を行う非専従の体制をとっています。なお、副支部長は2名体制となっており、管理員担当の副支部長と、調理士担当の私という形で、それぞれの職種の声を拾い上げられるようにしています。

私が組合活動に関わるようになったきっかけは、かつて支部の下部組織として存在していた分会の役員が、輪番で回ってきたことでした。当時は組合の仕組みなど何も分からない状態でしたが、周りの先輩たちが本当に良い人ばかりで、私を上手に遊ばせてくれたんです。分会員さんが楽しめるようにバス旅行を企画したり、地域のまつりに出店したりと、自分も楽しみながらお世話係として活動していました。

その後、当時の分会長が支部に上がることになり、私がその後を継いで分会長になりました。特に「こういう改革をしてやろう」という強い野心があったわけではなく、いわば組織の流れの中でここまで上がってきた人間です。しかし、いざ支部の役員になり、教育委員会との交渉の席に座るようになると、それまで一般組合員として「当たり前」に受け取っていた権利や労働環境が、実は諸先輩方の血の滲むような交渉によって勝ち取られたものであり、決して当たり前ではないのだということを痛感しました。この重要性を、もっと一般の組合員にも伝えていかなければならない。それが今の私の原動力になっています。

労働組合として直面している「2つの課題」

— 2012年の新規採用停止がもたらした深刻な高齢化

古谷:現在、私たちが抱えている最大の課題が「深刻な高齢化と組合員の減少」です。先ほど触れた民間委託化の流れの煽りを受け、神戸市では2012年を最後に、私たちの業種を含めての新規採用が止まってしまいました。それから14年が経過した今、インフラ関係の業種は採用が再開されているのですが、私たちの業種では新入職員が入ってこない一方で定年退職者は毎年出続けるため、組合員の数は減る一方です。

何より現場の高齢化は深刻で、現在の平均年齢は54.6歳。全国平均をはるかに上回っています。一番の若手と言われる職員ですら、もう30代後半という歪なピラミッド構造です。

私たちの仕事は、蒸し暑い調理場で大量の食材を扱う給食調理や、真夏の草刈り・樹木整備、校舎の修繕といった、文字通りのハードな肉体労働です。「このまま10年後、15年後を迎えたら、現場も支部の運営もどうなってしまうのか」という強い危機感を常に抱いています。

— 少数分散の職場環境による「情報伝達」の断絶

古谷:もう1つの課題が、情報の伝達が非常に難しいという点です。一般的な企業の労働組合であれば、大きな工場やオフィスなど、ある程度同じ場所に組合員が集まっています。しかし、私たちの職場は市内に点在する「学校」です。しかも、1つの学校に配置されているのは、基本は管理員1名、調理士数名といった非常に少ない人数です。

このように少数分散された環境では、支部から重要な方針や交渉結果を発信しても、最後のひとりにまで情報が届いている確実な保証がありませんでした。これまでは主に紙の機関紙を発行していましたが、一人二人の職場にポツンと届いても、忙しい業務の中で見落とされてしまうことも少なくありません。「組合が何をしてくれているのか、よく分からない」という声が上がってしまう原因は、この物理的な距離による情報の断絶にありました。

危機感から決断した「分会廃止」と「組合の大刷新」

— 刷新の背景〜アンケートで浮き彫りになった組合員の本音〜

古谷:組合員が減少し、情報が届きにくくなる中で、コロナ禍以降、さらに深刻な問題が起きました。それが「役員負担を理由とした組合離れ」です。

かつて存在した分会は行政区ごとに組織されていましたが、全体の人数が減ったことで、数年に一度は必ず役員の順番が回ってくるようになってしまいました。「よく分からないまま、時間外の仕事を押し付けられて気持ちがしんどい」「役員が当たるくらいなら組合を辞めたい」という理由で、脱退を希望する事例が続いてしまったのです。

組合員の減少に歯止めをかけ、現状を変えなければ組織が崩壊する。そう確信した私たちは、全支部員を対象とした大規模なアンケート調査を実施しました。そこでは案の定「役員に当たりたくない」「組合が何をやっているか見えない」という生々しい本音が炙り出されました。

— 新たな仕組み〜3エリアへの集約と参加しやすい会議への工夫

古谷:アンケートの結果を受け、私たちは去年、組織の大刷新を決断しました。分会という組織そのものを完全に廃止し、支部に一本化したのです。 「役員が回ってくるから辞める」という脱退の引き金を物理的になくしたことで、組合員の減少には目に見えて歯止めがかかりました。しかし、分会をなくしたままで放置すれば、ただでさえ弱い情報伝達がさらに悪化してしまいます。そこで私たちは、市内の組織を「東部・中部・西部」の3つの大きなエリアに再編しました。

そして、学校の学期ごとに、それぞれのエリアで会議を開くという新たな仕組みをスタートさせました。以前の分会会議のように「〇〇区の人は必ずここに集まること」という強制力をなくし、「自分の住んでいる場所や勤務地から、一番行きやすい会議に自由に参加してください」という形に変えたのです。敷居を下げ、情報発信の場をこまめに設けることが、分会廃止に伴う新たな情報伝達の柱となっています。

「現場の生の声で勝ち取った「処遇改善」の成功事例

— 業務と組合の「両輪」で回す班長制度

古谷:私たちが新規採用の再開や労働環境の改善を訴え続ける中で、他の自治体の労働組合からも驚かれる、教育支部ならではの独自の強みがあります。それが「班長制度」です。
これは、4〜5校の学校を1つの「班」としてまとめ、そこに1名の「班長」を置く仕組みです。さらにその上には「総括班長補佐」「総括班長」というピラミッド構造が出来上がっています。この班長に選ばれた人間は、普段の現場の作業定数から外れ、担当する学校を巡回して業務の課題や、労働環境のチェック、共同作業、休んだ職員の業務代行など現場の業務のサポートを行います。

実はこの制度、業務上の管理体制でありながら、組合が主体となって行政側と掛け合い、歴史的に作り上げてきたものです。総括班長クラスになると、係長級の処遇で係長や業務統括の役職として、教育委員会とも直接話ができる様に席を置いています。つまり、実務や業務に関しては「班長制度のルート」で教育委員会と会話し、働く上での権利や処遇改善は「組合のルート」で交渉するという、強力な両輪の動きができることが、私たちの最大の武器なのです。

— データを武器に、教育委員会を動かしたエアコン全校設置

古谷:この班長制度と組合の連携がもたらした最大の成果が、学校の調理場へのエアコン全校設置です。今でこそエアコンがあるのは当たり前に思えるかもしれませんが、一昔前の調理場は熱風が吹き荒れる地獄のような環境でした。

単に「現場が暑くてしんどいと言っています」と教育委員会に伝えても、予算の壁に阻まれて役所は動きません。長年にわたり教育支部が集めてきた情報と併せて班長制度をフルに活用し、各学校の調理室の施設実態や温度・湿度を徹底的に実測して回りました。

「これほどの猛暑と湿度の中で、何百食という給食を肉体労働で作っている」「現に熱中症で倒れる事案が発生している」という事実を、言い逃れのできない具体的なデータとして叩きつけたのです。行政は数字を見て判断する組織です。この生々しい実測データと、組合としての長年交渉し続けた強い押し込みが合致した結果、政令指定都市の中でも最初期に、神戸市内の全学校の調理場へエアコンを設置させるという快挙を成し遂げることができました。現場の声を集約する仕組みが、確かな交渉力へと昇華した瞬間でした。

未来へのビジョン

—「TUNAG」の役割

古谷: 組織を支部に一本化し、少数分散された組合員への情報発信をさらに強化するために、私たちは「TUNAG」を導入しました。

それまでの紙の機関紙とは異なり、スマートフォンの画面を通じて、タイムリーに、ビジュアルを交えながら情報を届けられるこのアプリは、まさに私たちの「情報伝達の難しさ」という悩みを解決してくれる素晴らしいツールです。プロテリアル様やドクターユニオン様といった他労組の先進事例も参考にしながら、Figmaなどのデザインツールを使って、視認性が高く読みやすいレイアウトを模索し、日々工夫して発信しています。

このTUNAGの最大のメリットは、心理的な距離を縮めてくれる点にあります。これまでは、組合に何かを相談したり意見を言ったりすることは、「ものすごく敷居が高いこと」だと思われていました。しかし、アプリを通じて日常的に組合の活動やライトな情報に触れてもらうことで、「あ、組合ってこんなに身近なんだ」「これくらいの悩みなら、今度の会議で相談してみようかな」と思ってもらえる環境が整いつつあります。

— 人対人の対話を大切に、アットホームな組合へ

古谷: しかし、私はどれだけデジタルツールが便利になっても、「発信はアプリだけでいい、文章を出しておけばそれで終わり」にするつもりは毛頭ありません。なぜなら、労働組合の根底にあるのは、どこまでいっても「人対人」の繋がりだからです。

特に私たちの支部は高齢の組合員も多く、直接会って、顔を見て話をすることで、初めて引き出せる本音や日々の愚痴、お悩みがたくさんあります。学校長から言われたちょっとした一言への不安や、給食室の設備の細かな使いづらさは、デジタル上のアンケートだけではなかなか上がってきません。

だからこそ、私たちは「デジタルとリアルのハイブリッド」を目指しています。
TUNAGは、みんながエリア会議に足を運ぶための、最高の呼び水です。アプリで気軽に組合の動きを知ってもらい、敷居を下げた上で、「じゃあ、一回会議に行って直接話してみようか」と思ってもらう。数集まった会議の場では、アットホームな雰囲気で、議題以外のざっくばらんな本音まで吸い上げる。

この温かみのある繋がりを絶やさないことこそが、新規採用停止という厳しい時代の中でも、仲間を守り、未来へ組織を繋いでいくための、教育支部ならではの正攻法だと信じています。

〜古谷様、お話いただきありがとうございました〜

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この記事を書いた人

「for UNION」編集長。
2020年にスタメンに新卒入社。
その後、2022年1月に労働組合向けアプリ「TUNAG for UNION」を立ち上げ、現在はマネージャーとして、事業拡大に従事。

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