労働組合の努力で賃金は上がる?賃上げ交渉に関する基本を解説

従業員の賃金アップは以前より組合活動における大きなテーマであり、現在は物価上昇が続く社会全体のテーマでもあります。労働組合の努力で賃金は上がるのか、賃上げ交渉に関する知っておきたい基本を解説します。
賃金は労使交渉により決まる
日本では、毎年春に実施される春闘で、各社の労働組合が一斉に賃上げ要求を行うのが通例です。まずは、労働組合として持っておきたい、賃金に対する考え方を見ていきましょう。
賃金に対して持つべき考え方
経営者の中には、「賃金は仕事の成果に対して支払うべきもの」と考えている人がいます。しかし、会社が仕事の成果に全く無関係であるとはいえず、むしろ成果を上げるためには労使双方の努力が不可欠です。
また、賃金は本来国が基準を定めるものであり(憲法27条第2項)、健康で文化的な生活を保障する基準でなくてはなりません(憲法25条)。賃金をもらう労働者だけが保障を受けるのではなく、扶養家族も含めて、その生活が保障される水準でなければなりません。
賃金が労働の対価であることは間違いありませんが、その金額は仕事の成果に応じたものではなく、労働者とその家族がどのライフステージにおいても満足に暮らせるものであるべきなのです。
賃金を支払うのは会社ですが、会社に遠慮しすぎると一向に賃金が上がらないことにもなりかねません。賃金は私達の生活を支えるものであることをもっと自覚し、会社と対等な立場に立って建設的な議論を交わすことが大切です。
企業と賃上げ交渉を行う「春闘」とは
春闘とは、労働条件の改善を求めて労働組合が毎年春に行う全国的な共同闘争のことです。正式名称を「春季生活闘争」といい、労働組合にとって最も大きな活動の一つとなっています。
春闘では、同じ業界の労働組合が足並みをそろえて企業と団体交渉を行い、賃金引き上げなどの具体的な要求を提示します。労働組合の全国組織である連合が基本方針を検討し始めるのは8月ごろ、大手企業の回答が集中するのは例年3月中旬です。
集中回答日の妥結結果を受けて、中小企業の交渉が本格化するため、春闘は長期にわたるイベントだといえます。
春闘による賃上げと日本全体の賃金上昇との関係
近年の歴史的な物価上昇を受け、各企業も労働組合の賃上げ要求を無下にできない状況になっています。そこで、春闘の動向や社会への影響についても確認しましょう。
近年の春闘では高水準の妥結が相次ぐ
厚生労働省の調査によると、2024年における春闘の賃上げの平均妥結額は1万7,415円、賃上げ率は5.33%となりました。賃上げ率が5%を超えたのは、実に33年ぶりのことです。
また連合が公表する資料によると、2025年5月2日時点の集計結果は、平均妥結額は1万6,749円・賃上げ率5.32%となっています。このままいくと、2年連続で高水準の賃上げが実現することになるでしょう。
出典:賃上げ率は5.33%で33年ぶりの5%台(2024春闘における賃上げの状況:ビジネス・レーバー・トレンド 2024年10月号)|労働政策研究・研修機構(JILPT)
出典:中堅・中小組合の健闘が続く! 短時間等労働者の時給引き上げ率は一般組合員を上回る! ~2025 春季生活闘争 第5回回答集計結果について~
春先の賃上げが賃金上昇につながりにくい理由
春闘の好調ぶりを見ると、社会全体が賃上げにより元気になっていくのではないかと思われがちです。しかし、春闘の結果は大企業に大きな影響を受けており、中小企業への波及は限定的なものになっています。
日本の労働者の約7割は中小企業で働いており、中小企業の賃金が底上げされなければ、社会全体の賃上げにつながっていきません。春闘の結果を生かすためには、大企業と中小企業の賃金格差の解消が大きな課題となっていくでしょう。
賃上げ交渉に不可欠な基礎知識
団体交渉における賃上げを考える際に知っておきたい基礎知識を紹介します。いずれも賃金の仕組みを理解する上で重要な要素です。
定期昇給とベースアップ
賃上げは定期昇給とベースアップに大きく分けられます。勤続年数や成果に応じて定期的に賃金が上がるのが定期昇給、従業員全員の賃金が一律で引き上げられるのがベースアップです。
勤続年数により賃金が上がるタイプの定期昇給を導入している場合、退職者数と入社人数が毎年同程度であれば、企業の人件費負担は大きくなりにくいといえます。一方、ベースアップを導入する場合は、全従業員の給与を底上げするため企業の人件費負担が増えます。
賃金カーブ
賃金カーブとは、年齢や勤続年数に応じた賃金の動きを表したものです。定期昇給制度を整備している企業では、従業員が賃金カーブを維持しやすくなります。
一般的には年齢を重ねるにつれて生活にお金もかかってくるため、賃金の動きがカーブを描くのが理想です。しかし、企業によっては賃金カーブを維持できていないケースもあります。
賃金カーブの維持が困難な企業では、まずその補填分を確保した上で、ベースアップや時給引き上げなどの賃上げ交渉を進めていく必要があります。
平均賃上げ方式と個別賃金方式
平均賃上げ方式とは、従業員1人当たりの平均賃上げ額を要求・決定する方式です。それぞれの新賃金は妥結後の賃上げ配分で決まります。
定期昇給込みで行われることが多く、定期昇給制度がない組合でも要求をつくりやすいことがメリットです。ただし、一人一人の賃金をいくらにするかは分かりません。
個別賃金方式は、年齢・職種・熟練度などを指す「銘柄」ごとに賃金を要求・決定する方式です。最も身近な個別賃金としては、初任給が挙げられます。
日本の賃金交渉では、長い間平均賃上げ方式が主流でした。一方、産業別・職種別労働組合からなる欧米では、個別賃金方式が主流です。
労働組合と賃金は密接な関係にある
多くの組合員にとって、賃上げの実現は最も関心が高いテーマの一つだといえます。ただし、特に中小企業の場合は、大企業並みの賃上げを実現しにくいのが実情です。
また、賃金について調べる際は、さまざまな言葉を目にすることになります。賃上げを適切に検討するためにも、基本的な言葉はしっかりと理解しておきましょう。