労働組合に入ると昇格できないのは違法!その他の不当労働行為も解説

労働組合への加入を検討されている方々の中には、「組合員になると昇進や昇格が難しくなるのではないか」といった不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。そこで、労働組合と昇進・昇格との関係について、基本的な事柄を詳細に解説いたします。

目次

労働組合に入ると昇格できない?

労働組合に入っていても、原則として社内での昇格は可能です。組合員が管理職に昇格した場合や会社の不当労働行為と併せて解説します。

会社が昇格を認めないのは違法行為

会社が組合員に「組合から抜けなければ昇格は難しい」と伝える行為は、不当労働行為の「支配介入」に該当します。不当労働行為とは、憲法第28条で労働組合に認められている労働三権を会社が妨害する行為です。

不当労働行為の支配介入については、労働組合法第7条第3号で規定されています。支配介入に該当する主な事例を確認しておきましょう。

  • 経営者が全従業員の前で労働組合を非難する発言を行った
  • 組合活動で使っていた会社の施設を会社が使用禁止にした
  • 労働組合への参加状況に関するアンケート調査を会社が実施した

出典:日本国憲法第二十八条| e-Gov 法令検索

出典:労働組合法 第七条 | e-Gov 法令検索

組合員が管理職に昇格した場合は?

労働組合法第2条第1号では、以下に該当する人を「利益代表者」と見なし、組合への加入を認めていません。

  • 会社の役員(取締役・監査役・理事など)
  • 会社の人事に直接関わる立場の人(人事・労務・総務の部長クラス以上)
  • 労働条件や雇用制度の改変に直接関わる立場の人

労働組合法第2条では、労働組合に自主性を求めています。利益代表者が組合にいると、組合と会社が対等の立場にならず、組合の自主性が損なわれてしまうと考えられているのです。

従って、組合員が管理職に昇格した場合、原則は脱退してもらう必要があります。昇格後も組合に加入したままだと、組合が法的保護を受けられなくなる恐れがある点に注意が必要です。

優秀な人には脱退してほしくないと思うかもしれませんが、優秀な人ほど昇格の対象になりやすいものです。脱退してほしくないからといって、組合側が従業員の昇格の機会を奪うことは不可能であり、組合を辞めさせるために会社が昇格させたとも言い切れないのです。

出典:労働組合法 第二条 | e-Gov 法令検索

その他の不当労働行為

会社が組合員の昇格を阻む支配介入以外にも、会社に禁じられている行為がいくつかあります。支配介入以外の不当労働行為にはどのようなものがあるのかを見ていきましょう。

不利益取扱い

労働組合法第7条第1号では、労働組合に関わる行為をした従業員を会社が不利益に扱うことを、不利益取扱いとして禁じています。代表例は以下の通りです。

  • 組合に加入した従業員を解雇した
  • 組合の三役になった従業員を降格した
  • ストライキに参加した従業員の給料を減らした
  • 組合活動に積極的な従業員を地方勤務にした

組合員の昇格を阻む行為も、法的には不利益取扱いに該当するといえます。

また、労働組合に加入しないことや労働組合から脱退することを雇用条件にする「黄犬契約」も不利益取扱いです。組合加入の意思を入社時に調べることも認められていません。

出典:労働組合法 第七条 | e-Gov 法令検索

団体交渉拒否

団体交渉拒否とは、労働組合からの団体交渉の申し入れに応じないことです。労働組合法第7条第2号で不当労働行為として禁じられています。次のような行為も団体交渉拒否に該当します。

  • 団体交渉の申し入れには応じたが、当日になって交渉をキャンセルした
  • 2回目以降の話し合いを正当な理由なく拒否した
  • 申し入れ時に経営者の意向を伝えたのみで、話し合いの場を持たなかった
  • 申し入れ時に条件を提示し、従わない場合は交渉に応じないと伝えた

出典:労働組合法 第七条 | e-Gov 法令検索

経費援助

労働組合法第7条第3号では、会社が労働組合に金銭的な援助を行うことを禁じています。組合で使用する備品代を会社が負担したり、組合活動に関する出張で有給の利用を認めたりすることは認められていません。

ただし、次に挙げる行為は組合活動を円滑に進めるための合理的な支援と見なされ、経費援助の例外となっています。

  • 最小限の広さの事務所を労働組合に提供する
  • 団体交渉に費やした時間に対して給与を支給する
  • 組合の福利厚生基金に寄付する

出典:労働組合法 第七条 | e-Gov 法令検索

報復的不利益取扱い

報復的不利益取扱いとは、労働者が労働委員会に不当労働行為の申立てをしたことや、審査・調整において証拠を提出したり発言したりしたことなどを理由に、会社が労働者に対して解雇や配置転換などの不利益な取扱いをすることを指します。

労働者が権利を主張する際、それによって生じる不利益を恐れて主張をためらうことを防ぐため、報復的不利益取扱いは不当労働行為として労働組合法第7条第4号で禁止されています。報復的不利益取扱いの具体例は次の通りです。

  • 労働委員会の調査に協力した従業員の給与を減らした
  • 労働組合が救済申立てをしたことで従業員にハラスメントを行った

出典:労働組合法 第七条 | e-Gov 法令検索

労働組合への加入後も昇格は可能

組合に入っているというだけで昇格できないことはありません。会社が組合員の昇格の機会を奪う行為は、不当労働行為の支配介入に該当するとして禁止されているからです。

ただし、一定の立場以上の管理職に昇格した場合は、組合の自主性を維持するために脱退してもらう必要があります。どのような状況でも適切な判断ができるように、関連する法律についても理解を深めておきましょう。

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この記事を書いた人

労働組合にて専従(中央執行書記長)を経て、現職。

<セミナー登壇歴>
◼︎日本経済新聞社
『労組をアップデートせよ 会社と並走し、 組合員に支持される労働組合の作り方』
『労働組合の未来戦略 労組の価値向上につながる 教育施策の打ち方』

<メディア掲載>
◼︎日本経済新聞社
『​​​​団体契約を活用して労組主導で社員の成長を支援 デジタルを駆使して新しい組合像を発信する』

◼︎NIKKEI Financial
『「知らない社員」減らす 労組のSNS術』

◼︎朝日新聞社
『歴史的賃上げ裏腹 悩む労組 アプリ活用』

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