労働組合は一時金の捉え方が企業と違う?組合員への説明ポイントと交渉の注意点

組合員から一時金(賞与)の変動について質問を受け、説明に困った経験はないでしょうか。労働組合と企業では、一時金についての認識が違う場合が少なくありません。一時金の一般的な捉え方や労使で認識が異なる背景を整理した上で、一時金について交渉するときのポイントも解説します。
労働組合が押さえておきたい一時金の基本
組合員に一時金に関する説明をしたり労使で一時金の額について交渉したりするには、まず一時金とは何かを理解しておかなければなりません。一時金の意味合いや、労働組合・企業それぞれが位置付ける一時金について解説します。
一時金と賞与の違い
一時金と賞与(ボーナス)は、いずれも基本給とは別に支給される臨時の報酬です。一部の企業は「夏季一時金」や「年末一時金」といった名称で支給していることから、一般的な認識として両者は同義として扱われます。
しかし労働組合と企業では、言葉の捉え方に違いがあることに注意しましょう。労働組合は一時金を「月の賃金の後払い」に近い性質を持つものと位置付けており、組合員の生活を支える賃金の一部と考えます。一方で企業は、一時金を賞与と呼んで「利益分配」や「資金の調整弁」として扱い、業績に応じて支給額を変動させる傾向です。
ただ、「一時金」は賞与だけを指す言葉ではありません。例を挙げると退職金も一時金に含まれます。あくまで賞与のことを一時金と呼ぶ場合に、労働組合と企業では捉え方が異なると考えましょう。
労働組合が一時金を「生活給」と考える理由
労働組合が一時金を生活給と位置付ける理由は、実際の使われ方です。実際には家計の補てんやローン返済に一時金を使う労働者も多いため、生活の基盤と捉えています。
このため労働組合は、業績に左右されない安定支給を求める傾向が強いといえるでしょう。労働基準法第11条では、就業規則等で支給条件が明確に定められた賞与(一時金)は賃金に含まれるため、そうした場合は安定的な支給がなされるべきとの解釈もあります。
一時金を「業績連動型」とする企業の背景
企業によっては、基本給連動型のように業績に左右されない賞与制度を採用しているところもあります。ただ、業績連動型の賞与(一時金)を採用する企業が多いのも事実です。
企業は人件費を変動費化し、景気や業績の上下に対応したいという意向を強く持ちます。業績連動型の賞与は企業にとって予算化しやすく、業績が良ければ変動給を増やせるのがメリットなのです。
労働組合が一時金の交渉で注意したいポイント
労働組合としては、一時金が安定的かつ十分に支払われるよう交渉したいと考えるでしょう。ただ、やみくもに一時金を支払う、または額を上げるように要求するのは失敗の元です。交渉に当たって押さえておきたいポイントを三つ見ていきましょう。
一時金支給の法的根拠と就業規則の内容
一時金(賞与)には毎月の給与と違って、法的に支払の義務がありません。支払うかどうかは企業の自由です。ただし、就業規則や労働協約に時期を決めて支払うと定めている場合、企業には一時金の支払義務が発生します。
一時金の一種である退職金の場合、規定がなくても慣行で支払い続けていれば、支払う義務があると見なされるケースがあります。労働組合は、一時金は必ず支払われるべきものではないことを念頭に置いた上で、まず就業規則や労働協約の規定をチェックしましょう。
在籍要件の取り扱いによるトラブル
一時金(賞与)は、支給日に在籍していないと支給を受けられないケースがあります。例えば夏季一時金の算定期間が年初から6月いっぱいまででも、支給日が7月10日だと7月9日までに退職した従業員は一時金を受け取れない場合があるということです。
基本的には算定期間(上記の例では1月1日〜6月30日まで)に在籍していれば、支給日に退職済みでも一時金を受け取れます。ただし、就業規則や労働協約で支給日に在籍していないと一時金が受け取れない旨が規定されている場合、支給日までに退職した従業員は支給対象となりません。
「もらえるはずの一時金が支給されなかった」という状況が組合員から報告されたときは、就業規則や労働協約の内容を見てみましょう。もし組合内で在籍要件が不当だとの判断に至ったなら、交渉を経て労働協約や就業規則の改定を求める必要があります。
春闘で一時金の交渉が難航しやすい理由
春闘では、一時金の交渉が労働組合の思うような結果にならない場合が多くあります。2024年の夏季一時金要求・妥結状況を見ると、都内1,000労組の平均要求額88万円台に対して、平均妥結額は83万円台でした。
一時金の引き上げや安定支給の要求が難航しやすい理由は、先に解説した労働組合と企業の間にある、一時金をどう捉えるかの違いです。労働組合は一時金に生活基盤としての意味を求めているため、労組は固定化や金額の安定化を求める傾向にあります。一方で企業は、人件費抑制の観点から変動性を維持したがります。
この認識の違いがあるために、折り合いが難しくなってしまうのです。とはいえ企業も組織エンゲージメントを高めて離職率を下げたい事情があり、払いたくない意向の企業ばかりではありません。交渉の際は、経営事情についての理解を示しつつ、企業にも有益な取り組みとして一時金の安定的な支給や引き上げを打診することも検討しましょう。
参考:夏季一時金要求・妥結状況(最終集計)|都庁総合ホームページ
一時金に関する情報を組合内で共有しよう
一時金(賞与)をどのようなものとして位置付けるかは、労使間だけでなく個人によっても変わります。そもそも自分が考える一時金の定義が正しいと信じて疑ったことがない人もいるでしょう。組合員から一時金についての疑問が上がったときは、支給条件や交渉の経緯を透明化して共有する必要があります。
一時金の交渉経緯や支給条件を明確に伝える
一時金について、過去の支給額・業績との連動性を一覧で可視化すると説明が容易になります。このとき労働組合と企業での一時金(賞与)に関する捉え方の違いも明確にしておくと、無用な労使間のトラブル防止につながるでしょう。
また、支給の有無や額の根拠となる就業規則・労働協約の内容を、組合員向けに整理しておくことも大切です。正式な書面に基づいた支給であれば、組合員が納得しやすくなります。逆に支給の実態が就業規則や労働協約に反していたとき、組合員が早期に気付くきっかけにもなるはずです。
TUNAG for UNIONで情報を組合内の理解を促進する
TUNAG for UNIONは、労働組合のあらゆる情報を共有できるアプリです。一時金に関する法的根拠や就業規則での扱いなど、組合員の理解に向けた発信を、カスタマイズ性の高い情報共有機能でサポートします。アプリ内で実施できるアンケートで一時金に対する組合員の考えを収集し、改善提案に生かすことも可能です。
労働組合向けアプリ – TUNAG for UNION|情報共有、申請手続きをペーパーレス化
労働組合として一時金に対する説明責任を果たす
労働組合と企業では、立場の違いから一時金(賞与)についての捉え方が異なるケースも多々あります。組合員から「今年の一時金が少なかったのはなぜか」といった疑問が上がったとき、業績連動型の支給としている企業の場合はその旨を伝え、企業側の事情もしっかり説明しましょう。
とはいえ、一時金は生活費の補てんに使われることも少なくありません。労働組合としては、組合員の生活を守るためにも、できるだけ安定的な一時金の支給を求めたいところです。交渉の際は一時金には法的な支給義務がないことを前提に、就業規則や労働協約に定められた支給要件を確認して準備することをおすすめします。