定期昇給とベアの違いは?労働組合が押さえておくべき賃上げの仕組み

定期昇給とベアは、いずれも従業員の賃金が上がることです。労働組合が団体交渉で会社に賃上げを要求する際は、両方の目標を設定し、実現を目指します。本記事では、定期昇給とベアの違いや近年の昇給の動向、賃上げの仕組みについて詳しく解説します。

目次

定期昇給とベアの違い

定期昇給とベアは、どちらも賃上げの一種ですが、その目的や対象が異なります。まずは、それぞれの意味や違いを押さえておきましょう。

定期昇給とは

定期昇給とは、個人の勤続年数や業績評価に応じて、一定のタイミングで行われる昇給のことです。例えば、「年1回昇給あり」と求人に記載されている会社には、定期昇給があることになります。

定期昇給の対象者は、昇給対象となった従業員のみです。仕事の成果や個々のスキルに応じて昇給する規定しかない場合、従業員によっては昇給しないケースもあり得ます。

定期昇給の制度を設ける会社側のメリットは、労働者の勤労意欲を維持できることです。また勤続年数に応じて昇給する仕組みがある場合は、従業員にも将来の賃金が予測しやすくなるメリットがあります。

ベア(ベースアップ)とは

全従業員の給与を一律で引き上げることを、ベア(ベースアップ)といいます。労働者の生活水準の向上や物価上昇への対応が、ベアの主な目的です。

定期昇給と異なり、ベアは全ての従業員が対象となります。ベアにおける昇給の決め方は、基本給に一定の金額を上乗せするか、基本給を同率の割合で増やすかのいずれかです。

ベアを実施すると会社の人件費負担は増しますが、定期昇給は総人件費にそれほど大きな影響を与えないため、会社はベアの実施をより慎重に検討します。

近年の昇給の動向

公的な資料を参考に、2024年における定期昇給とベアの現状を紹介します。近年の春闘における賃上げ要求の結果も確認しておきましょう。

定期昇給とベアの現状

2024年に一般職で定期昇給を実施した企業の割合は83.4%です。一方、一般職でベアを行った企業や行う予定がある企業の割合は、52.1%にとどまっています。

企業規模で実施状況に差があることもポイントです。定期昇給とベアのいずれも、企業規模が大きくなるほど実施率も高くなっています。

出典:令和6年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況 P7~8 | 厚生労働省

2025年の春闘の結果

2025年の春闘の集中回答日には、定期昇給とベアを含めた金額の要求に対し、満額を含む高水準の妥結が相次ぎました。企業によっては、要求以上の回答を行ったケースもあります。

高水準妥結は2024年から見られる傾向ですが、集中回答日は大手企業の回答が集中する日であり、中小企業の結果とは別です。その結果を見ると一見、社会全体の平均賃金が上昇しているように映りますが、中小企業への波及は限定的なものになっています。

出典:2025 春闘 回答日 賃上げは?トヨタ NTT 日立 NEC 日産 三菱電機 自動車・電機など各社の状況まとめ | NHK | 春闘

賃上げの仕組み

組合活動で労働者の生活を守り続けるためには、賃上げの仕組みを理解することが重要です。定期昇給とベアが全体的な賃上げに及ぼす影響や、賃上げの動きが活発化している背景を見ていきましょう。

定期昇給が総人件費に与える影響は小さい

年齢や勤続年数で賃金が上がる定期昇給を実施している場合、基本的には年長者になるほど賃金も上がります。しかし、賃金が上がるほど定年も近くなり、従業員1人当たりの人件費がいつまでも増え続けるわけではありません。

賃金が高い年長者が定年退職するタイミングで賃金が低い新人が入ってくるため、定年退職者と新入社員の数が毎年同程度なら、定期昇給は総人件費にそれほど大きな影響を与えないことになります。会社全体の賃金水準が底上げされているわけではないのです。

本質的な賃上げにはベアが重要

社会全体の平均賃金が底上げされるためには、多くの会社で一定水準のベアが実施される必要があります。ベアは年齢や実績に左右されないためです。

労働組合が賃上げ交渉を行う際は、純ベアの内訳を明確にすることが重要です。純ベアとは、ベアの中で定期昇給やその他の賃金改善を除いた、純粋なベースアップ額のことです。

組合員の頑張りを認めて適正な業績の配分を要求することで、純ベアが明確になり交渉力が高まるため、より有利な条件を引き出せるようになるでしょう。

賃上げの動きが活発化している背景

今まで日本で広く浸透していた年功序列制では、定期昇給がメインでした。一方、人件費を圧迫するベアに対しては、多くの企業が消極的だったのです。

しかし、少子高齢化に伴う生産人口の減少で人手不足が深刻化していることから、近年は賃上げの動きが活発化しています。春闘に見られる近年の高水準妥結の背景には、優秀な人材を確保したいという各社の思惑があるのです。

また、国も賃上げ促進税制で労働者の賃金引き上げを後押ししています。賃上げ促進税制とは、賃上げを実施した企業が一定の条件を満たした場合、増加額の一部を法人税から税額控除できる制度です。

出典:賃上げに取り組む経営者の皆様へ

定期昇給とベアの違いを理解しよう

賃上げの分析では定期昇給とベアを分けて考えることが大切です。いずれも労働者にとって必要な要素ですが、それぞれの特徴を理解した上で賃上げを要求する必要があります。

定期昇給とベアの違いや近年の賃上げの動向について理解を深め、今後の組合活動や団体交渉に生かしていきましょう。

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この記事を書いた人

労働組合にて専従(中央執行書記長)を経て、現職。

<セミナー登壇歴>
◼︎日本経済新聞社
『労組をアップデートせよ 会社と並走し、 組合員に支持される労働組合の作り方』

<メディア掲載>
◼︎日本経済新聞社
『​​​​団体契約を活用して労組主導で社員の成長を支援 デジタルを駆使して新しい組合像を発信する』

◼︎NIKKEI Financial
『「知らない社員」減らす 労組のSNS術』

◼︎朝日新聞社
『歴史的賃上げ裏腹 悩む労組 アプリ活用』

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