労働組合が同一労働同一賃金をテーマに交渉を進めるために必要なこと

雇用形態による待遇差は、法律で企業に是正が義務付けられた現在も完全には解消されていない状態です。労働組合は「同一労働同一賃金」の考え方を理解し、必要に応じて使用者と交渉しなければなりません。そのために必要な同一労働同一賃金の知識を、分かりやすく解説します。
労働組合が知っておきたい「同一労働同一賃金」の知識
目的は正規・非正規間の不合理な待遇差の是正
「同一労働同一賃金」とは、同一企業内で正社員と非正規雇用者の間にある、不合理な待遇差の解消を目指す考え方です。企業には同一労働同一賃金の概念の下、雇用形態だけを理由とした待遇差を是正する動きが求められています。
厚生労働省の「労働力調査(2024年)」によれば、役員を除く雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合は36.8%にも上りました。人数で見れば2126万人と、3年連続で増加しています。
雇用形態による待遇の格差は、深刻な問題といえるでしょう。パートタイム労働者の組合加入率が上がっている(2024年「労働組合基礎調査」より)背景には、いまだに不合理な待遇差が存在している現状があるかもしれません。
参考:同一労働同一賃金特集ページ |厚生労働省
参考:統計局ホームページ/労働力調査(基本集計)年平均結果「2024年(令和6年)平均結果の要約」PDF2枚目
参考:令和6年労働組合基礎調査の概況 「概況版」P.4|厚生労働省
法律で企業の対応が義務化されている
「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(パートタイム・有期雇用労働法)の第8条により、2020年から企業に不合理な待遇差の是正が義務化されました。中小企業には猶予期間が設けられていましたが、2021年から適用されています。
雇用形態による待遇差を設ける場合、企業は従業員に理由を説明しなければなりません。行政による裁判外紛争解決手続き(ADR)の整備も求められます。
法整備の背景は、非正規という雇用形態から待遇が低いにもかかわらず、正社員と同程度の働きを求められる労働者が珍しくなくなってきたことです。同じ業務や責任を負っているのなら、同じ待遇にすべきという考え方は自然でしょう。
参考:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)第8条|e-Gov法令検索
同一労働同一賃金で認められない待遇差とは?
同一労働同一賃金の対象となる待遇には、基本給や賞与・各種手当・福利厚生・教育訓練など、あらゆる待遇が含まれます。では、不合理な待遇差とは具体的にどのようなものでしょうか。厚生労働省の「同一労働同一賃金ガイドライン」をベースに、基準を解説します。
不合理な待遇差の例
同一労働同一賃金では、以下のようなケースが不合理な待遇差と見なされます。
- 業務内容や能力・責任が同じにもかかわらず、非正規雇用者であるために基本給が低い・非正規雇用者にだけ賞与が支給されない
- 役職手当や特殊作業手当が、非正規雇用者には支払われない
- 担当する業務が同じなのに、非正規雇用者だけ必要な教育訓練を受けられない
能力や経験・業務内容・責任範囲などの実態が同じであれば、正規雇用でも非正規雇用でも同一の待遇を与えなければならないということです。
不合理ではない待遇差の例
同一労働同一賃金は、「同じ働きをしたなら賃金(待遇)も同じくする」という考え方です。逆に考えれば、職務内容や責任の程度、成果・能力の違いに応じた待遇差は認められます。評価基準が明確で、実態に違いがある合理的な待遇差は問題とされません。
評価基準やルール自体が同一労働同一賃金の考えに反するものである場合は、見直しが不可欠です。また、「期待値が違う」といった抽象的な基準も望ましくありません。待遇差を設ける場合、企業には業務内容や責任範囲・配置転換の有無など、具体的な違いを示す義務があります。
労働組合が同一労働同一賃金をテーマに交渉する準備
非正規雇用の組合員から待遇差について声が上がる、企業側から非正規雇用者の待遇について方針を示されるというケースもあるでしょう。
もし実態として不合理な待遇差があったり企業の方針に問題が見られたりしたとき、労働組合は団体交渉を検討すべきです。同一労働同一賃金にまつわる交渉には、どのような準備をして臨めばよいのでしょうか。
待遇差の対象となる項目を整理する
同一労働同一賃金をテーマとした労使交渉には、不合理な待遇差の洗い出しが欠かせません。基本給や賞与・手当・福利厚生・教育訓練など、交渉の対象とすべき待遇の項目を、非正規の組合員の声や実態調査から整理しましょう。
企業の対応や提示してきた方針と、厚生労働省のガイドラインを照合すれば、改善が必要な点が明確になります。
他組合の見解や動向も参考に妥当性を判断
厚生労働省の同一労働同一賃金ガイドラインを見ても、不合理な待遇差と不合理とは見なさない待遇差の例が列挙されているわけではありません。ほかの組合の考え方や取り組み事例を参考にすると、要求の妥当性を判断しやすくなるでしょう。
事例と自分の組合で考案している要求を突き合わせ、慎重に「この待遇差は不合理なのか」を判断していく必要があります。例えば連合の資料には、同一労働同一賃金ガイドラインよりも具体的な判断基準が書かれています。
参考:連合|労働・賃金・雇用 均等待遇原則(同一労働同一賃金)「同一労働同一賃金の法整備を踏まえた労働組合の取り組み ーパート・有期編ー」PDF2枚目
交渉は段階的に進める
同一労働同一賃金についての交渉は、段階的に進める必要があります。一度に全てを要求するのではなく、最初は賃金の平等化、次に教育訓練の平等化や福利厚生の適用拡大など、段階的な進行が現実的です。
実際、厚生労働省のサイトにも、以下のように記載されています。
「同一労働同一賃金の導入は見直す項目が多いため1回の見直しで終わらない取組です。」
同一労働同一賃金の知識を持って労使交渉を
正規雇用と非正規雇用の間で待遇差が見られた場合、労働組合としてすぐに動かなければと思うかもしれません。ただ、厚生労働省の「同一労働同一賃金ガイドライン」では、待遇差そのものは合理的である限り認められています。
不合理な待遇差ではないかという疑いが上がったときは、まずガイドラインと照らし合わせた判断が必要です。他組合の取り組みも参考に、根拠のある交渉を目指しましょう。