キャリアアップ支援も労働組合の仕事?組合として支援に関わるには

正社員転換やスキルアップ支援を求める声が組合員から上がる中、キャリアアップ支援に労働組合としてどう関わるべきか悩んでいる役員も多いのではないでしょうか。キャリア形成支援が求められる社会的背景や組合が果たせる役割、実際に取れるアクションを具体的に解説します。

目次

労働組合がキャリアアップ支援に取り組む意味

キャリアアップの支援は、労働組合にとって重要な交渉テーマの一つです。企業側が一方的に決めるのではなく、現場の声をくみ取った制度設計を目指すには、組合の存在が欠かせません。

スキルの習得やキャリアの見直しを求める声は、若手や非正規雇用の労働者だけでなく、ミドル・シニア層からも多く聞かれます。こうした課題に応える取り組みは、組合活動の信頼にもつながるはずです。

キャリアアップが労働者の課題になっている背景

かつて日本では、終身雇用や年功序列を前提としたキャリアパスが一般的でした。企業内で勤続年数を重ねていけば、それなりの処遇やポジションが得られるという安心感が、多くの正社員に共有されていたのです。

しかし近年、この前提は大きく崩れています。成果主義やジョブ型雇用が浸透しつつあり、「キャリアは個人の責任」と見なされがちです。非正規雇用者も2000年以降増加しており、雇用形態による処遇や教育機会の格差が課題として顕在化しています。

また、40代以降のミドル・シニア層にとっても、これまでの経験をどう次のステージに生かすかは切実な問題です。定年延長や再雇用といった制度が整備される一方で、中高年層が自らキャリアを見直し、職場で役割を再定義していく必要性が高まっています。

参考:非正規雇用(有期・パート・派遣労働)「非正規雇用の現状と課題」PDF |厚生労働省

組合の支援が必要とされる3つの理由

まず、労働者が個人として企業にキャリア支援を求めることには限界があります。特に非正規雇用や若年層の場合、自らの立場や将来像について声を上げにくい現実があるでしょう。そうした中で労働組合が代弁者となり、集団的にキャリア形成の課題を取り上げることは大きな意味を持ちます。

また、キャリア支援は雇用の安定や処遇改善と密接に関わるテーマです。非正規雇用者のキャリアアップが実現すれば、正社員登用される可能性が出てくるでしょう。スキルが身に付いて給与が上がることも考えられます。労働組合は賃上げ要求と同時に、間接的な待遇向上につながるキャリア支援についても企業に働きかける必要があるでしょう。

さらに重要なのは、労働組合は制度の提案や職場環境の改善について、法的に交渉を認められた存在という点です。労働組合法により、労働組合は労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを目的とする団体として法的に位置付けられており、使用者には正当な理由なく団体交渉を拒否することが禁止されています。

参考:労働組合法 第2条第1項・第7条第2号|e-Gov法令検索

ミドル・シニア層へのキャリア支援の重要性

定年前後の不安や孤立を防ぐには、組織的な支援が必要とされています。人間関係が育まれた職場から離れることで、社会とのつながりを感じにくくなり、孤立感が深まるためです。とはいえ、全ての企業が中・高年層のキャリア支援ができるほどの余裕を持っているわけではありません。

また、長年組織内でキャリアを築いてきたミドル・シニア層は、「外では自分の能力が通用しないのではないか」という不安を抱えやすくなります。現役として働ける年齢が上がってきている現在、40代以降でも転職するケースは珍しくありません。そのときにキャリアアップが重要になってきます。

豊富な経験を生かしつつ新たなキャリアを築くための支援は、企業だけでなく労働組合からも可能です。日頃から組合員の声に耳を傾け、定年後や今後のキャリアへの不安が見られるようなら、労働組合が主体的に動くべきでしょう。

労働組合にできるキャリアアップ支援の具体策

キャリア支援は、労働組合が積極的に関わりたい課題です。では具体的に、組合としてどのような形で組合員のキャリアアップに寄与できるのでしょうか。

非正規雇用者のキャリア形成支援策を企業に提案する

非正規雇用者の中には、家庭や病気などの事情だけでなく、スキルや知識の不足で正規雇用での就業に至れない人も多いでしょう。職場に非正規雇用の従業員が多いなら、正社員登用や、より待遇の良い職場に転職するためのキャリアアップ支援が求められます。

労働組合としてできるのは、教育訓練の機会を増やしたり、資格取得を支援する制度を整備したりといった対応を求めることです。企業としてのキャリアパス設計に、非正規雇用者も含めるような制度見直しを働きかけるとよいでしょう。

制度活用に向けて企業と建設的な協議の場を持つ

厚生労働省は、非正規雇用が企業内でキャリアアップできるよう促し、正社員化や処遇改善に取り組んだ事業主に対して一定の金額を助成する「キャリアアップ助成金」の利用を勧めています。これは労働組合が企業にキャリアアップ支援を求めるに当たって、非常に有用な材料となるでしょう。

交渉でキャリアアップ助成金に触れれば、企業側にもキャリアアップ支援に取り組むメリットがあると伝わります。労働組合の一方的な要求ではなく、企業にとって建設的な協議だと感じてもらえれば、要求が受け入れられやすくなるはずです。

参考:キャリアアップ助成金|厚生労働省

全ての改善を一度に求めず段階的な交渉計画を立てる

キャリアアップ支援と処遇改善は、自然と結び付いていく要素です。とはいえ、企業側もキャリア支援を導入してすぐ給与を上げるといった対応は難しいことが多いでしょう。

最初の交渉では教育研修などキャリア支援策の提案、次回以降に賃金制度の見直しというように、段階的な交渉を進めていくと無理なく要求をのんでもらえる可能性が高まります。

また、計画的な交渉を進めていくためには組合内での意思統一が欠かせません。組合としての方針を全体に共有することで、一丸となってキャリア支援の交渉に取り組めるようになります。

キャリアアップ支援を組合の信頼向上につなげる

賃金や労働時間・休暇などのテーマに比べて、キャリアアップは労使交渉のテーマに上がりにくいかもしれません。ただ、近年は特に労働者のキャリアアップは重要性を増してきています。間接的に待遇の向上につながるキャリア支援は、企業だけでなく労働組合も積極的に取り組むべき課題といえるでしょう。

組合が企業に交渉し、例えば非正規雇用の組合員のキャリアアップが実現して正社員登用されれば、組合への信頼度は上がります。ミドル・シニア層のキャリアアップに寄与できると、豊富な経験から労働組合に有益な情報を提供してくれるかもしれません。

団体交渉の際は、具体策や企業にとってメリットとなる材料を用意して、建設的な話し合いの場を設けましょう。

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

労働組合にて専従(中央執行書記長)を経て、現職。

<セミナー登壇歴>
◼︎日本経済新聞社
『労組をアップデートせよ 会社と並走し、 組合員に支持される労働組合の作り方』
『労働組合の未来戦略 労組の価値向上につながる 教育施策の打ち方』

<メディア掲載>
◼︎日本経済新聞社
『​​​​団体契約を活用して労組主導で社員の成長を支援 デジタルを駆使して新しい組合像を発信する』

◼︎NIKKEI Financial
『「知らない社員」減らす 労組のSNS術』

◼︎朝日新聞社
『歴史的賃上げ裏腹 悩む労組 アプリ活用』

目次