労働組合が組合員の自己啓発に関わるべき理由。事例を集めて対応方針の決定を

かつての労働組合では、労働環境の悪さや賃金の低さが主な問題として取り上げられてきました。しかし労働者のニーズは変化し、現在は自己啓発やキャリアのサポートを求める声も上がるようになってきています。労働組合として、自己啓発の支援にどう関わるべきなのでしょうか。具体策を挙げて解説します。

目次

労働組合は自己啓発支援の担い手

自己啓発やキャリアに関する支援について、これまで対応したことのない労働組合も多いのではないでしょうか。しかし現代の日本では、労働組合が組合員の自己啓発を支援する必要性が生じています。

キャリア開発が「自己責任」とされる風潮がある

終身雇用制度の崩壊と成果主義化が進む現代の日本では、会社がキャリアのレールを用意してくれなくなってきました。労働者は、自発的にキャリア形成や自己啓発に励む必要に迫られています。

自己啓発は若手世代だけでなく、ミドル・シニア層にも求められています。労働年齢人口が年々減少している中で、企業は人手不足に苦しんでいる状況です。40代以降の人材ニーズが高まり、ミドルの転職も珍しくなくなりました。

変化の激しい現代において、ミドル・シニア層が新たな職場で活躍するには、自己啓発やキャリアアップが不可欠といってもよいでしょう。

労働者個人だけでは自己啓発が難しい

日本の労働者には、「自ら意思決定し行動している」という自覚が希薄であるといわれています。これは、内発的動機付けが弱く、自己啓発を完遂することが難しい傾向にあるためと考えられます。また、自己啓発に関して何をすべきか不明であったり、関連情報の入手が困難であると感じている労働者も少なくありません。

自己啓発を個人のみに委ねた場合、個人の特性や情報リテラシーの差によって、キャリア形成に必要な行動が取れる人とそうでない人が生じる可能性があります。その結果、社会的な地位や経済格差が拡大し、貧困層の増加を招き、ひいては日本経済の停滞にもつながりかねません。

組合は使用者と共働して制度をつくれる存在

労働者の自己啓発には、使用者と労働組合が協力して取り組むことが重要です。労働組合には、憲法第28条と労働組合法第1条第1項、同法第7条2号によって、使用者との正当な交渉が保障されています。

労働条件のほかに教育制度の整備も、団体交渉や労働協約の締結を通じて実現できる存在が労働組合です。実際、2025年春闘の要求項目にも各種制度の整備が含まれています。

自己啓発の支援は「労働者のスキルアップ」という、使用者にとってのメリットも大きい取り組みです。組合側からうまく交渉を持ちかければ、協力体制を築きやすいと考えられます。

参考:日本国憲法 第28条|e-Gov法令検索

参考:労働組合法 第1条第1項・第7条第2号|e-Gov法令検索

労働組合として自己啓発を支援するには

労働者の自己啓発は、本来使用者と労働組合が協力して支援できるのが理想です。ただ、十分に職場で教育を受けられない・職場外で自己啓発をしたいという人に対する支援は労働組合が対応する必要があります。

労働組合が主体となって、自己啓発支援を実施しているケースも少なくありません。組合主体の支援に必要なポイントを見てみましょう。

他組合の取り組み事例を整理する

他組合が自己啓発についてどのような取り組みを実施しているかは、自組合の方針決定の参考になります。いくつかの事例を見ると、自己啓発の支援にも複数の選択肢があると分かるのではないでしょうか。

以下に自己啓発の支援に関する、労働組合主体の取り組みを挙げます。

<自己啓発に役立つ講座の助成>

従業員に対して各種講座の半額を助成する「自己啓発支援制度」を整備している(三越伊勢丹グループ労働組合)

<さまざまな学習手段の提供>

「一人ひとりが勇気と誇りを持ち ともに高め合い、喜びを分かち合い 豊かな人生を歩んでいる」というビジョンを掲げ、セミナーや勉強会の開催、eラーニングの提供など組合員が自発的にキャリアを開発していける支援を実施している(日本出版販売労働組合)

ほかには労働関連の法律や各種労働問題についてのeラーニングを導入し、全員の知識レベルをそろえ、有意義な意見交換ができるようになった組合もあります。ビジネスパーソンとしてはもちろん、組合委員としての自己啓発を支援するのも将来の組合に有用です。

参考:【質問】自己啓発支援制度の申請方法を教えて欲しい | 三越伊勢丹グループ労働組合

参考:「組合員の豊かな人生を実現するために」~日本出版販売労働組合が取り組む、より良い職場環境作り~ | ボーグル

自組織に合った手法を検討する

労働組合として自己啓発支援に関わる方法はさまざまです。企業との協力関係が築けるなら、団体交渉で労使の意見を取り入れた、自己啓発支援の制度整備を要求できます。

組合が主体となって支援する場合も、紹介した事例からも分かる通り、各種講座の助成、eラーニングの提供、セミナーの開催など手法は多様です。予算や人的リソースなどを考慮して、自分の組合に最も合った方法を選びましょう。

自己啓発を支援するときのポイント

組合員の自己啓発を支援するとき、労働組合として押さえておきたいポイントがいくつかあります。せっかく団体交渉で環境整備を促したり、組合内で学習機会を設けたりしても、活用されなければ意味がありません。

では組合として具体的に何を意識すれば、組合員は積極的に自己啓発に取り組めるようになるのでしょうか。

役員が自ら率先して自己啓発に励む

労働組合や企業が支援体制をつくっても、組合員のモチベーションが低いと十分に活用されない可能性があります。まず役員が率先して自己啓発に取り組むことで、手本となり組合員の自己啓発意欲を高めるとよいでしょう。

現在は、あらゆる属性の人に向けたセミナーが各社から提供されています。組合役員向けの自己啓発セミナーには、リーダーシップを育てるもの・ダイバーシティへの理解を深めるものなどがあります。各役員が課題だと感じている分野の講座を受講するのがおすすめです。

役員自らがセミナーを受講したことを機関誌や社内掲示板などで共有すれば、組合員が自己啓発に取り組む後押しとなります。組合内の情報伝達がうまくいっていないと感じるなら、「TUNAG for UNION」のような労働組合向け情報共有アプリの活用も検討してみてください。

労働組合向けアプリ – TUNAG for UNION|情報共有、申請手続きをペーパーレス化

組合員同士で学びを共有できる環境をつくる

自己啓発には、学びを分かち合える仲間の存在が重要です。組合内で共に学べる土台をつくることで、自己啓発を継続しやすくなります。1人で取り組むより、新しい気付きや学びも多くなるでしょう。

勉強会の日程が合わず人が集まらないような場合は、オンラインで交流の場を設けるのも一つの手段です。アプリで手軽に双方向の情報発信ができるTUNAG for UNIONを活用すれば、学び合いの土台づくりが進みます。

自己啓発支援は労働組合が関与できる重要課題

自己啓発は、現代日本の労働者にとって不可欠といってもよい取り組みとなっています。しかし終身雇用が崩壊しはじめている今、キャリアアップのための自己啓発は労働者自身が自己責任で取り組まなければならない状況があるのも事実です。

ただ、1人で実際に自己啓発を始めたり自己啓発の支援を個人で使用者に求めたりするのは、労働者にとってハードルが高いでしょう。そこで労働組合が間に入って教育制度の整備を協議する、組合が主体となって支援を提供するといった動きが必要になってきます。

自己啓発を通じてキャリアアップが実現すれば、労働者の経済的地位も上がっていくはずです。働く人を守る存在である労働組合こそ、自己啓発の支援に取り組むべきといえます。

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

労働組合にて専従(中央執行書記長)を経て、現職。

<セミナー登壇歴>
◼︎日本経済新聞社
『労組をアップデートせよ 会社と並走し、 組合員に支持される労働組合の作り方』
『労働組合の未来戦略 労組の価値向上につながる 教育施策の打ち方』

<メディア掲載>
◼︎日本経済新聞社
『​​​​団体契約を活用して労組主導で社員の成長を支援 デジタルを駆使して新しい組合像を発信する』

◼︎NIKKEI Financial
『「知らない社員」減らす 労組のSNS術』

◼︎朝日新聞社
『歴史的賃上げ裏腹 悩む労組 アプリ活用』

目次