労働組合が取り組むべきメンタルヘルスの問題とは?果たすべき役割や具体例を紹介

多くの企業で、従業員のメンタルヘルスの問題が深刻化するなか、労働組合の存在が注目されています。組合員の心身の健康を守り、働きやすい環境を整えることも労働組合の重要な役割のひとつです。労働組合が果たすべきメンタルヘルス対策の役割を解説します。

目次

労働組合の役割とメンタルヘルス支援

労働組合は組合員の権利を守り、労働条件の改善を目指す組織であり、近年はメンタルヘルスの問題が増加するなかで、その役割がますます重要になっています。まずは、労働組合のメンタルヘルスに関わる取り組みの重要性について、基本的なところを押さえておきましょう。

メンタルヘルスに関する取り組みの重要性

近年、労働環境の変化に伴い、多くの企業で従業員のメンタルヘルスの問題が浮き彫りになっています。

特にテレワークの普及により、上司や同僚とのコミュニケーション不足が生じ、孤独感やストレスを抱える人が増加しました。長時間労働や過重な業務負担が続くことで、精神的な不調を訴える人も少なくありません。

企業がメンタルヘルス対策を講じることは重要ですが、労働組合も従業員のメンタルヘルスをサポートする役割を果たすことで、より現場の実態に即した支援が可能になります。

メンタルヘルスに関する意識を高める啓発活動や、ストレスチェックの推進、企業との協議を通じた労働環境の改善などが考えられます。さらに、相談窓口の設置や専門家との連携による支援体制の強化も、従業員が安心して働くための有効な手段です。以下で詳しく紹介します。

メンタルヘルス問題が職場に与える影響

メンタルヘルスの問題は、個人の生産性の低下や欠勤・休職の増加だけではなく、企業全体にも深刻な影響を及ぼします。職場のコミュニケーションの問題や従業員満足度の低下につながり、組織全体の業務効率や、雰囲気を悪化させる可能性もあるでしょう。

メンタルヘルスの問題により長期間にわたり休職する人材が増加すると、残された従業員の業務負担が増大し、さらなるストレスを生み出す悪循環に陥ることがあります。さらに、職場の人間関係が悪化すると、チームワークが低下し、組織全体の生産性が落ちることも珍しくありません。

労働組合はこういった問題に対して、企業側と協力しながら、職場環境の改善や支援体制の構築に取り組む役割も担っています。

労働組合がメンタルヘルスの対策で果たすべき役割

労働組合がメンタルヘルスの対策で果たすべき役割について、もう少し掘り下げて理解しておきましょう。労働者の声を集めながら、以下の取り組みを通じて、職場全体のメンタルヘルス環境の改善に貢献することが期待されています。

労働環境の改善交渉

労働組合の主要な役割の一つは、企業との交渉を通じて労働環境を改善することです。メンタルヘルス対策に関しては、長時間労働の是正や過重労働の防止、適切な休暇取得の促進などが重要な交渉項目となります。

労働組合は職場の実態を把握し、組合員の声を集約した上で、団体交渉を通じて具体的な改善案の提示が可能です。例えば、残業時間の上限設定や有給休暇の取得促進、フレックスタイム制度の導入などを提案し、実現を促すことができます。

また、職場のストレス要因を特定し、その改善策を提案するのも重要な役割です。事実、人間関係の改善や業務の効率化、適切な人員配置などに関して、労使協議の場で議論を重ねている労働組合は少なくありません。

メンタルヘルスの啓発

労働組合は、組合員に対してメンタルヘルスに関する正しい知識や情報を提供し、啓発を図る役割も担っています。例えば、メンタルヘルスに関する研修会・講演会の開催や、パンフレットやニュースレターの配布などを通じて、組合員の意識向上を図ることが挙げられます。

特に、ストレスマネジメントの方法や、メンタルヘルス不調のサインとその対処法などについて、具体的な情報を提供することが重要です。また、管理職向けの研修を実施し、部下のメンタルヘルスケアや適切な労務管理について学ぶ機会を設けることも効果的です。

さらに、職場のコミュニケーションを活性化させるための取り組みを提案し、組合員同士が互いに支え合える環境づくりを促進することも、労働組合の重要な役割といえるでしょう。

労働組合のメンタルヘルスの取り組み

労働組合は労働者のメンタルヘルス対策として、以下のような具体的な取り組みが可能です。企業の制度では対応しきれないケースも多いため、積極的に検討してみましょう。

メンタルヘルス研修の実施

労働組合はメンタルヘルスに関する知識と、対処法を身につけるための研修プログラムを主体的に企画・実施できます。具体的な研修内容としては、ストレスの仕組みや対処法、コミュニケーションスキルの向上、ワーク・ライフ・バランスの実践方法などが挙げられます。

特に、講義形式だけでなく、グループワークやロールプレイなどの参加型手法を取り入れることで、実践的なスキルの習得を促せるでしょう。メンタル不調の早期発見に関する研修は、従業員の健康を維持するために重要な役割を果たします。

相談窓口の設置

組合員が安心して悩みを打ち明けられる相談窓口を設置することで、メンタルヘルス問題の早期発見と対応を支援するのも有効です。会社の窓口とは異なる立場から、さまざまな相談を受けられるのが大きな強みです。

相談窓口の運営においては、プライバシーの厳守と相談員の専門性確保が必要になります。相談内容が外部に漏れることへの不安は、相談の大きな障壁となるため、情報管理のルールを明確にし、組合員に周知しましょう。相談員には基本的なカウンセリングスキルや、関連法規の知識を身に付けるための研修も必要です。

ストレスチェックの実施を促進

企業にストレスチェックの実施を促し、その結果を基に適切な対策を講じることも、労働組合の重要な役割です。チェックの結果を活用し、企業側に必要な改善策を提案することで、より働きやすい職場環境につながります。

特に高ストレス者の医師面談につながる仕組みづくりや、面談後の適切なフォロー体制の整備に、労働組合が積極的に関与することで実効性が高まります。

労働組合のメンタルヘルス支援の実例

労働組合によるメンタルヘルス支援の取り組みは、多くの企業で実施されています。代表的な事例を紹介するので、参考にしてみましょう。

パナソニックグループ

パナソニックグループ労働組合連合会(パナソニック労連)は、メンタルヘルス対策を重要な活動と位置づけ、組織的かつ継続的な取り組みを展開しています。

健康保険組合と労働組合、会社が協力して従業員の健康づくりを推進しており、職場のコミュニケーションと、現状の把握に配慮した取り組みを進めているようです。

メンタルヘルスに関するチェックはもちろん、ハンディキャップを持つ人に対する支援や家族交流会などの取り組みにも注力しており、悩み相談や法律相談も広く受け付けています。

参考記事:労働組合のメンタルヘルスの取り組み 働く人を取り巻く過酷な環境のなかで求められるもの

アステラス製薬

アステラス製薬も労使主体の取り組みの一環として、従業員の復職サポート面談を実施しています。メンタルヘルスの不調や、けが・病気などから従業員が復職する際、労働組合が積極的に声掛けの機会をつくり出し、職場でのコミュニケーションをサポートします。

さらに面談を通じて仕事の課題などをヒアリングし、必要に応じて対応する姿勢を続けており、定期的なストレスチェックの実施や、管理職向けの研修などにも注力しているようです。

参考記事:労働組合のメンタルヘルスの取り組み 働く人を取り巻く過酷な環境のなかで求められるもの

労働組合としてメンタルヘルス対策に注力する

労働組合によるメンタルヘルス対策は、組合員の生活と健康を守るだけでなく、職場全体の生産性向上や持続可能な発展につながる重要な活動です。近年、働き方の多様化やデジタル化の進展に伴い、新たなストレス要因も生まれる中で、労働組合の果たす役割はさらに重要になるでしょう。

メンタルヘルス対策の効果を高めるには、組織的・継続的な取り組みが不可欠です。他社の事例も参考にしつつ、企業側と協力しながら、従業員が安心して長く働ける環境を構築しましょう。

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この記事を書いた人

労働組合にて専従(中央執行書記長)を経て、現職。

<セミナー登壇歴>
◼︎日本経済新聞社
『労組をアップデートせよ 会社と並走し、 組合員に支持される労働組合の作り方』

<メディア掲載>
◼︎日本経済新聞社
『​​​​団体契約を活用して労組主導で社員の成長を支援 デジタルを駆使して新しい組合像を発信する』

◼︎NIKKEI Financial
『「知らない社員」減らす 労組のSNS術』

◼︎朝日新聞社
『歴史的賃上げ裏腹 悩む労組 アプリ活用』

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