労働災害における労働組合の役割は?労災保険の基本も解説

労働組合は、労働災害の防止や補償、安全な労働環境の確保に重要な役割を担う存在です。組合員が労災被害に遭った場合は、会社と交渉したり労災申請のサポートを行ったりしなければなりません。労働災害における労働組合の役割や労災保険の基本を解説します。

目次

労働災害の基礎知識

労働災害により休業4日以上となった人は毎年10万人以上に上り、死亡した人も毎年700人を超えています。どの企業にも労働災害は発生し得るため、労働組合としてしっかりと知識を得ておくことが重要です。まずは、労働災害の基礎知識を解説します。

出典:労働災害|しっかり学ぼう!働くときの基礎知識|確かめよう労働条件|厚生労働省

労働災害とは

労働災害とは、労働者が業務中や通勤中に負傷・疾病・死亡に至ることです。業務が原因で発生した「業務災害」と、通勤途中に発生した「通勤災害」の2種類があります。

労働者が仕事をしている最中に、会社の設備や作業などが原因でけがをしたり病気になったり、死亡したりする事故が業務災害です。「工場で機械に挟まれた」「建設現場で墜落した」「長時間労働で過労死した」といったケースが該当します。

また、通勤災害は、労働者が会社と自宅の間を正しい通勤経路で移動している途中にけがや障害を負ったり、死亡したりすることです。通勤途中の交通事故などが該当します。

労働災害と認められた場合に受けられる補償

労働災害と認められれば、主に次のような補償を受けられます。

  • 療養(補償)等給付:療養を必要とする場合の治療費などを補填する目的で支給される
  • 休業(補償)等給付:療養のために休業して働けない場合に賃金の一定割合が支給される
  • 傷病(補償)等年金:療養開始後、一定期間を過ぎても治癒しない場合に支給される
  • 障害(補償)等給付:傷病が治ゆした後、身体に一定の障害が残った場合に支給される
  • 遺族(補償)等給付:労働災害で死亡した労働者の遺族に支給される

他にも、葬祭料等(葬祭給付)・介護(補償)等給付・二次健康診断等給付・社会復帰促進等事業があり、それぞれに一定の支給条件が定められています。

出典:労災給付の種類

こんなとき労災保険は給付される?

労働災害に至るまでの状況にはさまざまなケースがあり、場合によっては労災保険が給付されないこともあります。労災保険が給付される可能性が高いケースと低いケースを見ていきましょう。

労災保険が給付される可能性が高いケース

発生した災害が業務災害と見なされるためには、次の両方を満たす必要があります。

  • 業務遂行性:災害発生時に労働者が会社の指揮命令下で業務を行っていたか
  • 業務起因性:発生した災害と業務に一定の因果関係があるか

また、通勤災害と見なされるためのポイントは、合理的な経路や方法による通勤の途中であったかどうかです。

以上を踏まえ、労災保険が給付される可能性が高いケースを紹介します。

  • 木材加工所で皮剥ぎ機の保守中に、リングバーカーに挟まれてけがを負った
  • 出張先のホテルで就寝中に火災が発生し、逃げ遅れて死亡した
  • 道路清掃工事の作業員が道路の傍らで休憩していたところ、交通事故に遭った
  • 自転車で帰宅途中に1時間程度理髪店で散髪し、再び帰宅していた途中に転倒した

労災保険が給付されない可能性が高いケース

以下のようなケースに該当する場合、労災認定されない可能性が高くなります。

  • 就業時間外の私的な活動中の事故
  • 業務との関連性が低い疾病
  • 通常の通勤経路から大きく外れた場所で発生した事故

労災保険が給付されない可能性が高い具体例は次の通りです。

  • 遅番の従業員が会社の運動部の朝練に出るため移動中に事故に遭った
  • 集金人が業務とは関係ない第三者と集金先でけんかをしてけがを負った
  • 社宅のガラス戸を強化しようとして破損させてしまい負傷した

労働災害における労働組合の役割

組合員が労災被害に遭った場合は、労働組合として被害者のサポートを行うことが大切です。また、労働災害の発生防止に向けた取り組みも進めましょう。

組合員の労災被害に対するサポート

一般的に、労災申請の手続きは会社を通じて行います。本来は労働者本人が行う手続きですが、会社には手続きを支援する義務があるのです。

しかし、状況によっては会社が手続きを代行しないケースや、会社が労災申請に協力的でないケースもあります。このような場合に組合員が困らないよう、組合として手続きのサポートを行いましょう。

また、業務中に事故が発生した場合、労使間のトラブルに発展するケースも少なくありません。労働組合としては、会社との交渉にあたったり損害賠償請求を支援したりするなどのサポートが可能です。

労働災害の発生の防止

労働災害の発生防止に向けた活動も、労働組合に求められる役割の一つです。安全衛生委員会への参加や危険性の周知、安全対策の検討など、組合としてできることは数多くあります。

また、労働環境の改善を通じて労働災害の発生リスクを低減することも可能です。労働災害が発生しやすいリスクがある場合は、会社に働きかけて労働環境の改善を求めましょう。

労働組合は労働災害から組合員を守る存在

労働組合は労働者の権利保護や労働条件の改善を目的とする組織であり、労働災害に関する問題にも関わります。労災が発生した場合の相談・支援や労災保険の申請サポート、会社との交渉などが、労働災害に関する組合側の主な役割です。

労働災害はいつ発生してもおかしくないため、労働組合として適切な対応が取れるよう、必要な知識を身に付けておきましょう。

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この記事を書いた人

労働組合にて専従(中央執行書記長)を経て、現職。

<セミナー登壇歴>
◼︎日本経済新聞社
『労組をアップデートせよ 会社と並走し、 組合員に支持される労働組合の作り方』
『労働組合の未来戦略 労組の価値向上につながる 教育施策の打ち方』

<メディア掲載>
◼︎日本経済新聞社
『​​​​団体契約を活用して労組主導で社員の成長を支援 デジタルを駆使して新しい組合像を発信する』

◼︎NIKKEI Financial
『「知らない社員」減らす 労組のSNS術』

◼︎朝日新聞社
『歴史的賃上げ裏腹 悩む労組 アプリ活用』

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