【特別号】連合総研・中村氏に聞く、労組の関心低下と多様化時代の打ち手・展望について

中村様の自己紹介

『働くの未来』『これからの労使関係』『労働市場の高度化』をテーマに調査・研究・提言を行う。
1999年リクルート入社、2009年リクルートワークス研究所に異動。「2025年」「Work Model 2030」「マルチリレーション社会」など、働き方の長期展望を発表。「人材採用システムの研究」で2016年一橋大学にて博士号取得。日雇い派遣の研究で2012年日本労務学会研究奨励賞、トータルリワードの提案で2020年全能連マネジメント・アワードのプログラム・イノベーター・オブ・ザ・イヤーを受賞。2021年10月、連合総研に転職。専門は人的資源管理論。修士(数理科学)、博士(商学)。

目次

労働組合の未来像を描く

2022年に連合総研と連合で「労働組合の未来」研究会を立ち上げ、昨年、研究会報告書「労働組合の『未来』を創る ―理解・共感・参加を広げる16のアプローチ―」を発表しました。座長は玄田有史東京大学社会科学研究所教授で、わたしは事務局の主担当として研究会を推進しました。今日は、研究会報告の内容とわたしが個人として行ってきた研究知見をあわせて、労働組合の皆さんと考えたいことについてお話できたらと思っています。

「労働組合の未来」研究会の報告書は「16のアプローチ」と銘打っているように、テーマの異なる16の論考をまとめていて、しかも、従来の労働組合論よりもかなり範囲の広い議論を行っています。すべてを一度に紹介するとわかりにくいので、報告書の発表以降、労働組合の皆さんと対話するなかで、関心が高かったり、ご意見が多かったりしたトピックを3つ紹介させていただきます。

3つのトピックとは、労働組合に対する理解や関心の低下、性別や雇用形態といった人材の多様化への労働組合の対応、ソーシャル・キャピタル、社会関係資本ともいわれますが、としての労働組合です。ちなみに、ソーシャル・キャピタルは「労働組合の未来」研究会ではなくて、わたし自身が「労働組合の未来」研究会と併行・連動する形で研究しているものです。

研究をするうえで、過去と未来という時間軸や、日本と海外という空間を横断するような視点をもつことが有効な場面が結構あるんですね。労働組合は先人たちの積み重ねのうえに活動をしていて、ゼロから新しいことに取り組むわけではないので、とくにこうした視点が大切だと感じています。「労働組合の未来」研究会報告書には、20年前、30年前からの変化を分析した論考がいくつもあるので、是非ご覧いただけたらと思っています。

労働組合への理解・関心が低下

研究会全体の基盤となっているのが、連合総研の基幹調査「勤労者短観」の2003年調査と2022年調査の比較分析です。梅崎修法政大学キャリアデザイン学部教授が分析してくださったところ、約20年の間に、働く人々の労働組合に対する理解や関心が著しく低下していることがわかりました。2003年と2022年にかけて、「勤め先に労働組合があるかどうかわからない」という回答が9.7%から21.8%に増加していて、労働組合は企業に対して「何も影響を与えない」という回答も10.2%から36.1%に、組合員に対して「何も影響を与えない」という回答も10.6%から35.7%に増加しています。一方で、「労働組合に加入することにマイナス面はあるか」に対しての回答も「特に問題がない」が19.3%から42.3%に増えていました。

分析結果が出るまでは、労働組合に対して、例えば時代遅れや怖いといったネガティブなイメージが強くて、関心が低下しているのではないかと話していたんです。しかし実際は、労働組合加入をマイナスだと考える人は減っていて、なのに、労働組合の存在や組合効果について知らない人が増えている。だとすると、単純に労働組合の存在感が低下して、労働組合がどんな存在かわからなくなってしまっていることになります。組織率の低下は以前から問題視されてきましたが、分析結果は、単に組織率が低下しているだけでなく、労働組合に対する理解や関心も低下していることを表していて、労働組合の退潮が想像以上に進んでいることがわかりました。

わたしが行った分析でも、理想の組合活動として「空気のような存在」をあげる労働組合があることが明らかになりました。空気はふだん意識しないけれど、生きていくためになくてはならないものなので、こうした理想を掲げる労働組合は、組合員におしつけがましくなく寄り添いながら、なくてはならない存在を目指しています。

労働組合の役員には世話焼きで、奉仕精神が高く、黒子であろうとする人が結構いるので、空気のような存在を目指す気持ちはわかるんです。でも、20年間に労働組合への理解や関心が下がっているという事実とあわせて考えると、労働組合が空気を目指してしまうと、組合活動の輪郭が一層曖昧になるという副作用を無視できません。

ポジティブな面に光をあてる

研究会では立ち上げ当初から、「理解・共感・参加」という観点からアプローチすることを決めていました。議論のなかで「理解が進めば労働組合への参加が増えるという一方通行ではなく、活動に参加することによって労働組合への理解が深まるという逆方向もありえる」「活動に共感するから労働組合への理解や参加が進むという面もある」といった指摘があり、「理解→共感→参加」という単純な循環ではなく、理解も共感も参加も大切として、検討を進めていくことになりました。

まず、共感については、今の労働組合の課題として、しんどさや古めかしさを感じさせる表現は多いのに、組合活動の楽しさやポジティブな面を伝える表現がないということが指摘されました。流血を賛美する労働歌や戦争用語がそのまま残っていたりするのも、若い人の感覚とはずれていて、労働組合が敬遠される原因になっているだろうと。

この点について宇野重規東京大学社会科学研究所教授は、これからの労働組合は「ファンダム」を追求してほしいと、報告書のなかで提唱しています。「フリーダム」が自由な状態を意味するように、ファンダムというのは、推し活をするファンのように、人が何らかの対象を好きだというだけでなく、その対象のために少しでも自ら活動してみたいという思いのことです。

さらに、社会運動論が専門の富永京子立命館大学産業社会学部准教授が、環境変化に適応してきた労働組合の分析を通じて、労働組合がアップデートしていくためには、守り続ける根幹と、柔軟に変えていく手法を切り分けることが大切だと指摘しています。

組合コミュニケーションを見直す

では、どんな手法にあらためていけばいいのか。手法に関しては「コミュニケーション・デザイン」という考え方を梅崎修法政大学キャリアデザイン学部教授が提唱しています。これは、働き方の多様化やテレワークの導入などにより、人々が同じ場所や時間、雇用形態で働くとは限らないなかで、労働組合が労働者とのコミュニケーションを再設計する必要があるというものです。

ちなみに、TUNAG for UNION は労働組合のコミュニケーションを変革するツールですよね。わたし個人の研究として、以前、TUNAG for UNIONを利用していて、組合活動が活性化している労働組合にお話を聞かせていただきました。

そこでわかったことは、TUNAG for UNIONというプラットフォームが組合内部の情報の流れやコミュニケーションを変えているだけでなく、対面活動や紙の組合誌の時には執行部から見えていなかった「サイレント・メンバー」の存在を見える化することでした。

サイレント・メンバーというのは、組合の集会やイベントに参加せず、アンケート調査などにも回答しないので、執行部からすると一見、組合活動に対して消極的な組合員だと映ります。ところが、プラットフォームを導入して、利用履歴を見るとログイン頻度が高かったりして、組合活動への関心やある種の参加には積極的。労働組合によってはこうしたサイレント・メンバーが相当数いて、執行部にとって嬉しい発見であり、組合参加の定義や範囲を広げるものになっています。

組合役員の高負担という問題

「労働組合の未来」研究会では、労働組合への参加に関して論点が2つありました。ひとつは、雇用形態や性別、国籍といった多様な人材の組織化の拡大で、もうひとつは、組合役員の担い手といった組合内部での参加の拡大です。組織化は組合運動の中心です。首藤若菜立教大学経済学部教授は報告書のなかで組合員の定義を拡張し、近年事例が出てきている、労働協約の地域的拡張適用の拡大が重要だと論じています。

ただ、労働組合の実態を見ると、組合内部の参加の問題も無視できないと感じていました。というのも、労働調査協議会「第5回次代のユニオンリーダー調査」によれば、ユニオンリーダーの71.1%が「支部・単組の執行部へのなり手がいない」、63.7%が「組合の役員になることが、以前ほど企業内で魅力あるキャリアではなくなっている」と回答しているんです。執行部に意欲や能力のある人が集まれば、組合活動が充実し、組合員の関与や参加が増えるし、逆に、執行部にそうした人が集まらなければ、組合活動が停滞し、労働者の組合離れが加速します。つまり、労働者の組合参加を増やすためにも、組合役員のなり手の問題は避けて通れません。

しかも、組合役員の多くが時間的な悩みを抱えていることが明白でした。ユニオンリーダーの悩みや不満は上位から、「組合業務のために、自分の時間や家庭生活が犠牲になっている」37.8%、「仕事が忙しくて組合業務ができない」30.2%、「代わりの人がいないので役員・委員をやめられない」22.0%、「組合業務が忙しくて仕事に支障をきたす」21.4%です。

研究会を始めた当時は、「第5回次代のユニオンリーダー調査」の結果がまだ出ておらず、「第4回次代のユニオンリーダー調査」の結果をみていたのですが、第4回調査では、「組合業務のために、自分の時間や家庭生活が犠牲になっている」「仕事が忙しくて組合業務ができない」「組合業務が忙しくて仕事に支障をきたす」という時間に関する悩みが上位3つを独占していて、組合役員にとって時間的負担が大きな問題であることは明らかでした。

労働組合の7割で役員のなり手がいないという状態は、はっきりいって異様です。少なくともわたしのような企業人事や労働政策について考えてきた立場からは、その問題を放置して、どうやって労働組合を活性化して、再興していくのか、と思います。近年、国も企業も働き方改革を進めていますが、その大きな原動力になったのは少子高齢化による人手不足への危機感でした。働き方改革の取り組みは、7割もの組織が人手不足だという調査結果が出るよりも前に始まっています。

なのに、この調査結果を見せると、労働組合は「そういうものだから」「今に始まったことではない」と言われるのです。組合役員の多くが時間的負担に苦労していて、それが足枷になっているのなら、その足枷を軽くする方法をまずは考える必要があると思いませんか。組合役員のしんどさを無視して、「労働組合はもっとしっかり活動すべきだ」と声高に叫ぶだけでは、負荷をかける一方で、労働組合を再興するのは難しいと思ったのです。

現実に変えられる方法を編み出す

労働組合に対して不満や批判の声を耳にすることがよくあります。わたし自身も今の労働組合がベストだとは思っておらず、改善しなければならない課題があると考えています。研究会でも早い段階で、「多くの批判や改善提案がなされてきたのにもかかわらず、労働組合は十分な変革ができないままだ。この研究会で未来像を提示しても何も変わらないのではないか」という厳しい指摘がありました。

一方で、「〇〇すべきだ」と言われてできるのであれば、もっとやっているとも思うのです。できていないのはできないなりの理由があるはずで、例えば、組合内部のリソースの不足はその大きな理由になるはずなのに、そういった組内内部の事情についてはこれまでほとんど注目されてきませんでした。研究会でも委員から「すでに頑張っていてできていない状況で、さらに頑張れという方向性は現実的ではないのではないか。労働組合は頑張っているという前提に立って、これから取り組むことを考えたほうがいい」という意見が出て、労働組合が現実にできる方法を編み出すことも重視することになりました。

それが、法律や制度という労働組合を取り巻く前提から考え直す、というアプローチに結実していきました。一例をあげると、労働法の多くがたびたび改正されてきにもかかわらず、労働組合法は戦後ほとんど変わっていないんですね。労働組合、ひいては集団的労使関係を有効に機能させようと本気で思うなら、労働組合法の解釈や規定の見直しも含めて考える必要があると思うのです。

〜中村様ありがとうございました!第2弾もお待ちください!〜

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

「for UNION」編集長。
2020年にスタメンに新卒入社。
その後、2022年1月に労働組合向けアプリ「TUNAG for UNION」を立ち上げ、現在はマネージャーとして、事業拡大に従事。

目次