変形労働時間制とは?労働組合として知っておくべき働き方の基本

変形労働時間制は労働時間の配分を柔軟に行う制度のことです。労働組合としては、残業代や所定労働時間についての相談を受ける場合があります。変形労働時間制の特徴や種類などを理解し、組合員からの相談にきちんと対応できるようになっておきましょう。
変形労働時間制とは
近年は多くの企業が変形労働時間制を採用しています。変形労働時間制とはどのような働き方なのか、採用している企業の割合と併せて解説します。
労働時間を週・月・年単位で計算する働き方
変形労働時間制とは、業務の実態に合わせて労働時間を調整する制度です。業務の繁閑や特殊性に応じて、週・月・年単位で労働時間を計算します。
例えば、月末のみ忙しい場合に1カ月単位の変形労働時間制を導入すれば、一定時間の範囲内で日や週の労働時間を柔軟に設定することが可能です。これにより、月初に暇な時間ができたり月末に残業が発生したりといった無駄な労働を減らせます。
変形労働時間制の目的は、労使が工夫しながら労働時間を分配し、全体的な労働時間を短縮することです。そのため、変形労働時間制を導入する際には、労使協定を締結する必要があります。
変形労働時間制を採用している企業の割合
厚生労働省の「令和6年就労条件総合調査」によると、変形労働時間制を採用している企業の割合は60.9%です。企業規模が大きくなるほど割合も大きくなり、企業規模30~99人の企業の割合が56.9%なのに対し、企業規模1,000人の企業の割合は82.8%となっています。
多様な働き方が求められる現代社会においては、柔軟な勤務形態を提供することが企業の重要なテーマの一つです。企業規模が大きくなるほど、働き方に関して従業員のニーズに応えようとする意識が強いといえるでしょう。
変形労働時間制の種類
変形労働時間制の種類は、1週間・1カ月・1年のそれぞれで労働時間を考えるタイプに分けられます。また、フレックスタイム制も変形労働時間制の一種です。
なお、以下に挙げる種類ごとの内容を見る前に、前提として法定労働時間が1日8時間・週40時間を上限とすることを押さえておきましょう。
出典:労働時間:変形労働時間制(変形労働時間制) | 徳島労働局
1週間単位の変形労働時間制
1週間単位の変形労働時間制では、1週あたりの労働時間の上限40時間を超えない範囲で、1日ごとに労働時間を調整できます。1日あたりの労働時間の上限は10時間です。
1週間の中で忙しい日や暇な日が生じやすい業種に適しています。この制度を導入できるのは、労働者数30人未満の小売業・旅館・料理店・飲食店のみです。
1カ月単位の変形労働時間制
1カ月単位の変形労働時間制は、月ごとの平均労働時間を法定労働時間内に収める働き方です。1カ月における週平均の労働時間が40時間を超えなければ、1日の労働時間を制限なく設定できます。
月初・月末・特定週に業務が忙しい場合に適している制度です。業務にゆとりがある月初の労働時間を1日6時間にし、業務が忙しくなる月末の労働時間を1日10時間にするといったことができます。
1年単位の変形労働時間制
1年単位の変形労働時間制は、1年の間に繁忙期と閑散期がある場合に向いています。週平均の労働時間が原則40時間を超えなければ、年間の労働時間を偏らせて設定することが可能です。
夏季・冬季など特定の季節や特定月に業務が忙しい場合、その時期の労働時間を増やし、業務が暇な時期にその分を減らせます。変形労働時間制の中でも、最も多くの企業が採用しているタイプです。
フレックスタイム制
フレックスタイム制とは、一定期間(清算期間)の総労働時間を定めた上で、従業員がその範囲内で始業・終業時間を自由に決められる制度です。清算期間の総労働時間は法定労働時間の範囲内で設定されます。また、清算期間の上限は3カ月です。
企業によっては、必ず出勤しなければならない時間帯(コアタイム)を設けることがあります。コアタイム以外の時間帯は、自由に始業・終業時間を決められる時間帯(フレキシブルタイム)です。
変形労働時間制以外の代表的な働き方
勤務形態の中で最も一般的なのは、始業時間と終業時間が毎日決まっている固定時間制です。変形労働時間制や固定時間制以外の主な働き方を見ていきましょう。
裁量労働制
裁量労働制とは、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ労使間で定めた時間を労働時間とみなす制度です。労働者は、自分の裁量で仕事の進め方や時間配分を決められるため、成果を重視した働き方ができます。
裁量労働制は全ての業務に適用できるわけではなく、適用可能な業務や業種が決まっています。また、実際の労働時間がみなし労働時間を超えても、原則として残業代は発生しません。
時差出勤制
従業員が通常の始業・終業時間からずらして出勤・退勤することを認める制度が時差出勤制です。満員電車や交通渋滞を避けることで従業員の負担を軽減できるほか、従業員の生活スタイルに合わせた働き方を実現する目的でも導入されます。
時差出勤制ではあくまでも始業・終業時間が変わるだけであり、1日の勤務時間自体は変わりません。また、始業・終業時間が変わらない従業員もいるため、従業員に不公平感を生じさせてしまう恐れがあります。
変形労働時間制の特徴
変形労働時間制には、メリットとデメリットの両面があります。企業側と労働者側のメリット・デメリットを見ていきましょう。
変形労働時間制のメリット
変形労働時間制を採用する企業側のメリットは、繁忙期の残業代を減らして人件費を節約できることです。また、業務量の変化に柔軟に対応できるため、業務効率の向上も期待できます。
従業員にとっては、メリハリのある働き方ができるためワークライフバランスを実現しやすいことがメリットです。リフレッシュの機会が提供されることでモチベーションも維持しやすいでしょう。
変形労働時間制のデメリット
変形労働時間制では勤怠管理が複雑化するため、正確な労働時間の把握が難しくなる場合があります。運用のために人員を増やしたりシステムを導入したりすると、運用コストもかかります。
変形労働時間制の従業員側のデメリットは、他の従業員と勤務時間が違うため仕事がしにくくなる可能性があることです。また、勤務時間が短い時期に収入がへるリスクもあります。
変形労働時間制に関するよくある相談
変形労働時間制を採用している企業では、残業代や所定労働時間について組合員からの質問が多くなるでしょう。組合側の担当者が押さえておきたい基本を解説します。
残業代が支給されない
変形労働時間制を採用している企業でも、労使間で36協定を締結していれば、企業が従業員に残業をさせることが可能です。1日8時間・週40時間の法定労働時間を超えて働いた従業員には、残業代を支払わなければなりません。
残業代が支給されないという相談を受けた場合、変形労働時間制の種類を確認し、実際に残業が発生しているか確認しましょう。残業があるのにもかかわらず残業代が支払われていなければ違法になるため、組合として企業に是正を求める必要があります。
所定労働時間があいまい
変形労働時間制では労働時間が複雑になるため、企業側で定める所定労働時間があいまいになりがちです。労働時間がはっきりしない状態では、サービス残業が横行しやすくなります。
変形労働時間制を導入する場合、就業規則にその旨を明記する必要がありますが、そもそも就業規則がない企業も少なくありません。所定労働時間があいまいになっている場合は就業規則で確認し、就業規則がないなら組合から企業に指摘しましょう。
変形労働時間制について理解を深めよう
変形労働時間制は、業務の実態に合わせて労働時間を柔軟に調整する働き方です。繁忙期や閑散期がある業界や職種では、多くの企業で採用されています。
変形労働時間制では労働時間の管理が複雑になりやすく、組合員からさまざまな相談を受けることが想定されるため、基本的な知識をしっかりと身につけておきましょう。