中小企業における労働組合の実態とは?ない場合の対処法

中小企業は大企業に比べ、労働組合のある企業が少ないのが実情です。労働問題を抱えていながら自社に労働組合がない場合、どのような選択肢があるのでしょうか。中小企業における労働組合の実態や、ない場合の対処法について解説します。

目次

中小企業における労働組合の実態

労働組合がある中小企業はどのくらいあるのでしょうか。中小企業に労働組合が少ない理由や中小企業における労働組合の重要性も紹介します。

推定組織率は極めて低水準

厚生労働省が公表する「令和5年労働組合基礎調査の概況」によると、2023年における企業規模別の労働組合の推定組織率は次の通りです。

  • 1,000人以上:約39.8%
  • 100~999人:10.2%
  • 99人以下:0.8%

従業員数1,000人以上の大規模法人の約40%に労働組合があるのに対し、中小企業における労働組合の推定組織率は極めて低いことが分かります。

出典:令和5年労働組合基礎調査の概況 | 厚生労働省

中小企業に労働組合が少ない理由

中小企業で労働組合を運営するのが難しい理由の1つに、専従者を確保しにくいことが挙げられます。組合活動に専念する人材として、外部から専門家を呼べるかどうかが鍵です。

また、中小企業は従業員数が少なく組合員が固定化しやすいため、活動がマンネリ化しやすくなります。人の入れ替わりが少なければ新しいアイデアも生まれにくくなり、どうしても組織が停滞してしまうでしょう。

中小企業における労働組合の重要性

中小企業に労働組合は必要ないという意見もありますが、従業員の立場が会社より低くなりがちな中小企業にこそ、労働組合が必要です。

労働組合は従業員が自主的に運営する組織であり、組合員が団結して自分たちの労働環境を改善していけます。1人で経営者に掛け合えばよいと考えがちですが、多くの中小企業では個人で動いても無力感を覚えるだけでしょう。

法令遵守の意識が低い企業が多いこともポイントです。中小企業の中には、労働基準法が守られていない企業も一定数存在します。

明らかな法令違反なら、労働基準監督署に相談すれば対応してもらえるかもしれません。しかし、ハラスメントや評価制度といった簡単に解決できない問題については、1人で解決を図るのは困難です。

多くの従業員が声を上げて初めて、会社が重い腰を上げて交渉のテーブルについてくれます。数の力で労働問題の解決を図れることが、労働組合の存在意義なのです。

中小企業で労働組合がない場合の対処法

中小企業は大企業より労働組合が少ない上、労働問題を相談できる窓口がないケースも少なくありません。中小企業で労働組合がない場合の主な対処法を紹介します。

労働基準監督署や弁護士に相談する

労働基準監督署とは、労働関係法令に基づいて企業の監督や労働者の保護を行う機関です。厚生労働省の出先機関であり、各都道府県に設置されています。相談費や調査費は全て無料です。

相談内容によっては、労働基準監督署が問題解決に動いてくれるケースがあります。ただし、労働基準監督署が行えるのは、基本的には是正勧告までです。その後の問題解決に向けては、労働者自身が行動しなければなりません。

一方、弁護士は労働者の代理人になれるため、労働者の代わりに企業と掛け合います。トラブルが収まらない場合は、裁判まで任せることが可能です。弁護士に支払う報酬は発生しますが、労働基準監督署より弁護士の方が早く問題を解決できるでしょう。

ユニオンに加入する

社内に労働組合がない場合は、ユニオンに加入するのも1つの方法です。ユニオンとは、働き先を問わず個人で加入できる社外の労働組合のことです。ユニオンは全国各地に存在し、基本的には業種や地域ごとに組織されています。

正社員だけでなく、パートやアルバイトもユニオンへの参加が可能です。企業内組合と同様、ユニオンも憲法や労働組合法の権利や保護を受けられます。

ユニオンのメリットは、会社とのしがらみを気にすることなく活動できることです。社外の人が集まるため、新たな人脈も増やせるでしょう。

一方、ユニオンに加入すると、自分が直接関係ない団体交渉への参加義務が生じることがあります。費用がいくらかかるのかも確認しておく必要があるでしょう。

労働組合を立ち上げる

労働組合は従業員が2人以上集まれば作ることが可能です。自社に労働組合がないなら、同じ志を持つ仲間に声をかけ、自分で作るのもよいでしょう。

労働組合を作ること自体はそれほど難しくありません。労働者が最低2人いればいつでも自由に結成でき、役所への届け出や会社の承認も不要です。

ただし、労働組合が法律上の保護を受けるためには、以下の条件を満たさなければなりません。

  • 労働者が主体となり自主的に運営している(労働組合法第2条)
  • 法定の内容が組合規約に含まれている(労働組合法第5条第2項)

運営中のトラブル発生時に備え、労働組合法について理解を深めておきましょう。

出典:労働組合法 第二条 | e-Gov 法令検索

出典:労働組合法 第五条 | e-Gov 法令検索

中小企業で労働組合を立ち上げるメリット

労働組合は会社と対等な立場で渡り合える組織です。活動の正当性が法律によって保障されており、労働者の大きな支えとなります。具体的にどのような恩恵を得られるのか、中小企業で労働組合を立ち上げるメリットを見ていきましょう。

不当な扱いから守られる

社内に労働組合があれば、会社の不当な扱いから従業員を守れます。会社との間に集団的労使関係を築けるため、従業員の意見や思いを会社にぶつけやすくなるのです。

上司によるハラスメントが横行している場合や、評価制度に対して不満を持つ従業員が多い場合でも、個人が社長と掛け合おうとするなら相当な覚悟と勇気が必要になるでしょう。

しかし、労働組合を立ち上げれば団結して動けるため、数の力をバックに会社と対等な交渉を行えます。適切な運営を続けていれば、会社側も基本的には交渉を拒否できません。

組合を通して専門家のアドバイスやサポートを受けられることもメリットです。1人では対処が難しい問題も、組合を通せば正しい方法で対処してもらえます。

賃金や労働時間について交渉できる

労働条件の改善を図れることも、中小企業で労働組合を立ち上げるメリットの1つです。「給料をもっともらいたい」「労働時間を短くしてプライベートとの両立を図りたい」など、労働環境に対する不満を解消できる可能性があります。

労働組合がない会社では、賃金・労働時間・休日や残業問題に関し、経営側が一方的に決めるのが基本です。一方、労働組合があれば従業員の声を集めて要求を出し、会社と話し合いの場を持って対等な交渉を行えます。

さらに、産業別組織に加盟すれば、同業他社の状況や労働条件について情報を交換することも可能です。他社での成功事例は自社においても大きな参考になるでしょう。

中小企業で労働組合を立ち上げる方法

労働組合を作る場合、まずは結成の準備を行い、結成大会を開催して正式に組合を立ち上げます。会社に通知するまでの大まかな流れを理解し、実際に立ち上げる際の参考にしましょう。

結成の準備を行う

労働組合を正式に立ち上げるまでは、結成準備会として活動を進めるのが一般的です。結成準備会では、主に次のような活動を行います。

  • 従業員への加入の呼びかけ
  • 会社の情報収集
  • 組合規約案の作成
  • 要求案の作成
  • 法律に関する勉強会

組合規約案とは、労働組合のルールをまとめたものです。組合が法的な保護を受けられるよう、労働組合法第5条第2項に定められている全事項を記載しましょう。

出典:労働組合法 第五条 | e-Gov 法令検索

決起集会を開催する

決起集会は労働組合を正式に立ち上げるためのイベントです。決起集会では次のようなことを実施します。

  • 結成準備会でやってきたことの報告
  • 組合規約・活動方針・予算の決定
  • 役員の選出

労働組合の第一歩となる決起集会は、組合員の士気が上がるような雰囲気で行いましょう。

会社に通知する

決起集会で正式に労働組合を立ち上げたら、その旨を会社に通知します。「労働組合結成通知書」と呼ばれる文書で通知するのが一般的です。

労働組合を立ち上げたことを会社に通知した後、会社によっては組合の動きを警戒するケースがあります。それまで慎重に加入の呼びかけを行ってきた場合でも、通知後は公然と活動ができるようになるため、会社が体制を整える前に組合員を一気に増やせるような対策を講じましょう。

中小企業の労働組合のよくある疑問

自分で労働組合を結成したら、いずれは組合の三役として活動することになるでしょう。行動を起こす前に知っておきたい知識を紹介します。

労働組合に加入できない人は?

労働組合は労働者が集まって結成する組織であり、会社の従業員なら原則として誰でも加入できます。パートやアルバイトなどの非正規労働者も参加することが可能です。

ただし、労働組合法第2条第1項にある「使用者の利益を代表する者」は、労働組合に加入できません。利益代表者は一般従業員と利害が対立する立場にあり、両者が混在すると健全な組合活動ができなくなる恐れがあるためです。

会社の役員や人事を直接左右できる人などが、利益代表者に該当します。

厳密には、利益代表者がいる労働組合は、法律上の保護を受けられなくなります。どうしても加入してほしい人が管理職なら、迎え入れるのにリスクがあることに注意しましょう。

出典:労働組合法 第二条 | e-Gov 法令検索

団体交渉はどのように行えばいい?

労働者には会社に対して団体交渉を行う権利があります。団体交渉とは、組合が提示した要求をもとに会社と話し合い、新たな取り決めを行うことです。

団体交渉を申し入れる前に、組合は要求を取りまとめておく必要があります。交渉の申し入れは文書で行い、あらかじめ日時や場所を決めておくのが一般的です。

団体交渉で双方が合意した内容は、労働協約にまとめます。労働協約は労働契約や就業規則に優先する、非常に強い効力を持つ労使間の合意です。

中小企業にも労働組合は必要

中小企業では従業員の立場が低くなりやすいため、さまざまな労働問題を抱えてしまう可能性があります。自社に労働組合がなく、どこに相談すればよいのか分からない場合、専門機関への相談やユニオンへの加入で解決を図ることが可能です。

また、労働組合がないなら自分で作るという方法もあります。労働組合を作ること自体はそれほど難しくありませんが、法的に守られる組合を作るためには、所定の条件を満たさなければなりません。自分に合った適切な方法で労働問題に対処しましょう。

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この記事を書いた人

筑波大学国際総合学類卒業。2023年にスタメンに入社し、人事労務・情報セキュリティに関するデジタルマーケティングを担当。 現在は「for UNION」の立ち上げメンバーとしてメディア企画に従事。

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