労働組合が会社の言いなりにならないためには?自主性を持った運用のコツ

労働組合の委員に選ばれたものの、労働組合が会社の言いなりの状態で、どのように運営すべきか悩んでいる人もいるのではないでしょうか。労働組合が会社の言いなりにならないためのポイントや、自主性を持った運用のコツを紹介します。

目次

労働組合の現状

厚生労働省が公表している資料を見ると、労働組合の活動が弱体化している現状が見て取れます。まずは、近年の労働争議件数の推移を確認しましょう。

労働争議件数はピーク時から激減

「令和3年労働争議統計調査」によると、2019年の総争議件数(争議行為を伴う争議と伴わない争議の合計)は268件です。この数字は調査を始めた1957年以降で最も低いものとなっています。

2019年以降も横ばい圏内で推移しており、近年は多くの労働組合が会社に対して要求を行っていないといえるでしょう。全ての労働組合が会社の言いなりになっているわけではないものの、経営側に「物が言えなくなっている」労働組合は少なくないと考えられます。

出典:労働争議件数は297件で過去2番目の低さ(国内トピックス:ビジネス・レーバー・トレンド 2022年10月号)|労働政策研究・研修機構(JILPT)

出典:令和3年労働争議統計調査 | 厚生労働省

会社の言いなりになる労働組合の特徴

会社と対等の立場にあるのが、労働組合の本来の姿です。しかし、会社の言いなりになっている労働組合は、会社と対等の立場にあるとはいえません。

どうして労働組合が会社の言いなりになってしまうのか、その主な理由を解説します。

自主性を欠いた組織となっている

労働組合は自主性を持った組織であることが求められます。自主性を欠いた労働組合は自らの判断で行動できず、会社と対等の立場になれないためです。

労働組合は、労働条件の改善を図るために、労働者が団結して組織されます。自主性がなく会社の言いなりになっている労働組合は、会社と対等の立場で交渉することは不可能です。

労働組合法第2条でも、労働組合は自主性がなければならないとしています。自主性不備組合は法適合組合として認められず、法律上の保護を受けられません。

出典:e-Gov 法令検索

会社から妨害行為を受けている

会社の言いなりになっている労働組合の特徴としては、会社から不当労働行為を受けていることも挙げられます。不当労働行為とは、憲法第28条で保障されている労働者の団結権・団体交渉権・団体行動権の行使を、会社が妨害する行為です。

労働組合法第1条では、会社と対等な交渉力を持つことを労働組合に求めています。会社が労働組合に影響力を持とうとする不当労働行為は、労働組合法第7条により禁止されています。

法律上の保護を受ける労働組合は、会社から不当労働行為を受けた場合、労働委員会に救済申立てを行うことが可能です。

出典:日本国憲法 第二十八条 | e-Gov 法令検索

出典:e-Gov 法令検索

不当労働行為の種類と事例

会社の言いなりになっている労働組合は、不動労働行為を受けている可能性があります。不当労働行為にはどのような種類があるのか、事例と併せて見ていきましょう。

不利益取扱い(労働組合法第7条第1号)

不利益取扱いとは、労働組合に関わる行為をした従業員を、会社が不利益に扱うことです。次のような事例が該当します。

  • 労働組合に加入した従業員を解雇した
  • 労働組合の役員になった従業員を降格した
  • 積極的な組合活動を行う従業員を遠隔地に単身赴任させた
  • ストライキに参加した従業員のボーナスを減らした

会社が日常的に労働組合への嫌悪感を示しているケースでは、上記のような行為が不利益取扱いに該当すると判断されやすくなります。

黄犬契約(労働組合法第7条第1号)

労働組合に加入しないことや労働組合から脱退することを雇用条件にすることを、黄犬契約といいます。英語の「yellow dog contract」に由来する言葉です。

黄犬契約は労働者の団結権を侵害する行為であり、不利益取扱いに該当します。組合加入の有無を入社時に調査する行為も違法です。

団体交渉の拒否(労働組合法第7条第2号)

会社が労働組合からの団体交渉の申し入れに応じないことは、不当労働行為に該当します。以下に挙げるケースも違法です。

  • 団体交渉の申し入れには応じたが、当日になって話し合いをキャンセルされた
  • 一度は話し合いの場を持ったものの、何かと理由をつけて2回目以降の交渉に応じない
  • 申し入れ時に経営者の意向を伝えられただけで、実質的な交渉権を持ちえなかった
  • 申し入れ時に条件を提示され、従わない場合は交渉に応じないと言われた

ただし、会社側に正当な理由がある場合の団体交渉拒否は違法ではありません。

支配介入(労働組合法第7条第3号)

支配介入とは、会社が何らかの形で労働組合に関わり、活動を委縮させようとすることです。主な事例を紹介します。

  • 労働組合を脱退しなければ昇進は難しいと言われた
  • 会社が従業員を集めて労働組合を非難する発言をした
  • 組合活動で使用していた会社施設を会社の判断で使用禁止にした
  • 会社が労働組合への参加状況に関するアンケート調査を行った

これらの行為は全て不当労働行為に該当します。

経費援助(労働組合法第7条第3号)

労働組合法は会社が労働組合に金銭的な支援を行うことも認めていません。会社の立場が強くなる恐れがあるためです。次のような行為が経費援助に該当します。

  • 組合活動で使用する備品代を会社が負担する
  • 組合活動に関する出張で有給の利用を認める

ただし、組合活動をスムーズに進めるための合理的な支援は認められており、次の行為は経費援助の例外です。

  • 団体交渉に費やした時間に対して賃金を支払う
  • 組合の福利厚生基金に寄付を行う
  • 最小限の広さの事務所を労働組合に供与する

報復的不利益取扱い(労働組合法第7条第4号)

会社から不当労働行為を受けた場合、労働組合は労働委員会に救済申立てを行えます。これに対し会社が報復的な行為を行うのは違法です。具体的な事例を確認しましょう。

  • 労働組合が救済申立てをしたことで従業員の給与を減らした
  • 労働委員会の調査に協力した従業員にハラスメントを行った

会社の言いなりにならない労働組合にするためには?

労働組合を会社と対等に渡り合える組織にするためのポイントを紹介します。自分の組合でもできることがないか検討し、組合活動を見直すきっかけにしましょう。

過半数組合を目指す

労働組合の発言力を強めるためには、組合員数を増やすことが重要です。人数が多いほど組織力が強固になり、労使交渉においても会社と対等な立場でやりとりしやすくなります。

組合として目指すべき加入者数の目安は、従業員の過半数です。過半数労働組合には次のようなメリットもあります。

  • 36協定を結ぶ際の当事者になれる
  • 就業規則の作成・変更時の意見聴取者になれる

出典:事業主・労働者の皆様へ | 厚生労働省

出典:過半数労働組合からの意見聴取 | 厚生労働省

ユニオン・ショップ協定を結ぶ

ユニオン・ショップ協定とは、全ての従業員を労働組合に加入させるための労使協定です。会社は以下の2点を守る必要があります。

  • 採用した従業員を労働組合に加入させる
  • 労働組合を抜けた従業員は解雇する

厚生労働省が2021年に実施した調査によると、組合員30人以上の労働組合のうち、ユニオン・ショップ協定を締結している労働組合の割合は全体で約69.8%です。

会社とユニオン・ショップ協定を結べば、労働組合の会社への影響力を強められるでしょう。ただし、組合が既に会社の言いなりになっている場合は効果が薄いほか、組合に入りたくない既存社員が退社するなどのデメリットもあります。

出典:労使コミュニケーションについて P39 | 厚生労働省

組合員の意識を高める

労働組合を会社の言いなりにならない組織に変えるためには、組合員の意識を高めることも重要です。一人ひとりが労働組合について理解を深め、積極的に組合活動を行うことで、内部の結束が高まり組織としての力も強くなります。

組合員同士の交流を活性化させれば、一人ひとりの意識向上を図ることが可能です。

自主性を持った組合運営を目指そう

労働組合は自主性を持った活動を求められる組織です。自主性に欠けた労働組合は、会社の言いなりになってしまう恐れがあります。

強い組織を作るためには、労働関連法について理解を深めることも重要です。会社の不当労働行為は違法であり、運営を妨害されているなら適切に対応する必要があります。

過半数組合やユニオン・ショップ協定も視野に入れ、会社と対等に渡り合える組織運営を目指しましょう。

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この記事を書いた人

筑波大学国際総合学類卒業。2023年にスタメンに入社し、人事労務・情報セキュリティに関するデジタルマーケティングを担当。 現在は「for UNION」の立ち上げメンバーとしてメディア企画に従事。

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