ストライキとは?労働組合側が知っておきたい基礎知識を解説
会社との団体交渉で進展がない場合、ストライキを検討することもあるのではないでしょうか。ストライキへの理解を深めておけば、今後の労使間協議について考える際の参考になるでしょう。労働組合側が知っておきたいストライキの基本的な知識を紹介します。
ストライキの基礎知識
そもそもストライキとはどのようなことを指すのでしょうか。ストライキの意味や法的根拠、似た言葉との違いを解説します。
ストライキとは
ストライキとは、労働条件の維持・改善を実現するために、労働者が集団で仕事を放棄することです。会社との団体交渉がうまくいかなかった場合に、ストライキが発生するケースがあります。
ストライキの種類には次のようなものがあります。
- 全面スト:会社における全ての部署で行われるストライキ
- 部分スト:特定の部署で行われるストライキ
- 指名スト:特定の労働者のみで行われるストライキ
国家公務員や地方公務員は、国家公務員法98条2項、地方公務員法37条1項によりストライキを実施できません。他にも、特定の職種や業務ではストライキが禁止されています。
ストライキの法的根拠
ストライキは憲法で労働者に保障されている権利です。日本国憲法第28条で規定されている団結権・団体交渉権・団体行動権のうち、ストライキは団体行動権に該当します。
憲法がストライキの権利を保障しているのは、労働者個人では会社と対等に渡り合うことができないと考えられているからです。
ストライキの権利保障
ストライキが適法に行われる場合、法律により以下のような保護を受けられます。
- 刑事免責:通常は犯罪に該当するような行為でも刑法で罰せられない(労働組合法第1条第2項、刑法第35条)
- 民事免責:会社が損害を受けても労働者に賠償を請求できない(労働組合法第8条)
- 不当労働行為の禁止:会社はストライキを理由に労働者を解雇・異動できない(労働組合法第7条)
法律上の要件を踏まえて適切な手順でストライキを実施すれば、労働者は法律により強力に保護されるのです。
ボイコットやサボタージュとの違い
ボイコットとは、特定の企業などに対し、商品の購入を避けたりイベントへの参加を拒否したりする行為です。ストライキと違い、行為者が労働者とは限りません。また、行為の内容自体もボイコットとストライキでは異なります。
サボタージュは「サボる」の語源であり、労働者が意図的に業務の生産性や質を下げる行為です。ストライキのように集団で行われるとは限らず、また完全に仕事をしないわけでもありません。
日本におけるストライキの現状
かつての日本ではストライキが盛んに行われていましたが、現在はピーク時から激減しています。日本でストライキが少ない背景も併せて見ていきましょう。
労働争議件数はピーク時から激減している
独立行政法人労働政策研究・研修機構が公表する資料によると、争議行為を伴う争議(ストライキやロックアウトなど)の近年における発生件数は、ピーク時に比べ激減しています。
争議行為を伴う争議が最も多かった年は年間1万件近く発生していますが、2023年の発生件数は75件です。前年からは若干増えているものの、近年は100件に満たない数値で横ばいに推移しています。
出典:図2-1 労働争議|早わかり グラフでみる長期労働統計|労働政策研究・研修機構(JILPT)
現在の日本でストライキが少ない背景
日本でストライキの発生件数が少ない理由の一つに、労使協議制度の定着が挙げられます。労使協議とは、会社と労働者がさまざまな事項について話し合い、合議を取る制度です。
労使協議制度の定着により、日本ではストライキや団体交渉を行わなくても、労使間の意見を調整しやすくなっています。
企業の業績悪化もストライキが減っている理由です。賃上げのような要求は、ストライキを実施しても通らない可能性が高いでしょう。
ストライキを実施する流れ
ストライキはどのような流れで実施されるのでしょうか。ストライキが発生するまでの一般的な流れを紹介します。
団体交渉を行う
ストライキを保障している権利が団体行動権であることからも分かるように、ストライキは労働者個人では行えません。一般的な前提としては、労働組合が結成されていることが条件となります。
また、ストライキは労使間の交渉が行き詰まった際に行われるものです。まずは団体交渉を尽くし、それでも状況が変わらない場合に、初めてストライキが検討されます。
団体交渉を行わずにいきなりストライキを起こした場合、違法と見なされる恐れもあるため注意しましょう。
適法なストライキか確認する
適法に実施されないストライキは法律で保護されないため、トラブルに発展する恐れがあります。ストライキの準備段階で、適法なストライキか確認することが大切です。
ストライキを適法に実施するための主な条件をまとめました。
- 労働組合が主体となって実施する
- 労働組合で適法に実施を決定している
- 目的が正当なものである
- 争議行為の手段や態様が正当なものである
- 団体交渉を尽くしている
- 争議行為が禁止されている産業ではない
出典:労働組合のストライキの行い方、注意すべき点 | かながわ労働センター
ストライキを実施する
労働組合がストライキを実施する場合、組合員や組合員代表の直接無記名投票で過半数の賛成を得なければなりません。
労働協約の内容を確認することも重要です。一般的にはストライキ実施前に会社へ通知を行いますが、労働協約でルールが規定されているケースもあります。
ストライキの実施中も団体交渉を続け、問題解決の糸口を見つけるための努力が必要です。
ストライキを実施する際の注意点
ストライキにはさまざまなリスクがあるため、リスクを理解した上で実施を検討する必要があります。ストライキを実施する際の注意点を見ていきましょう。
ストライキ中は無給
ストライキに参加した労働者は働かないことになるため、ノーワーク・ノーペイの原則により賃金が発生しません。
なお、ストライキの参加者に会社が賃金を支払った場合、労働組合への経費援助とみなされて会社が不当労働行為(労働組合法第7条)に問われる可能性があります。
事業所が閉鎖される恐れがある
ストライキへの対抗手段として、会社側がロックアウトを実施するケースがあります。ロックアウトとは、会社が事業所を閉鎖することです。
労使間の交渉態度やストライキの様態によっては、会社が適法なロックアウトを行えます。ロックアウトが長引くと、労働者に賃金が発生しない期間が長くなる恐れがあります。
違法なストライキのリスク
違法なストライキを実施した場合のリスクは次の通りです。
- 会社から損害賠償を請求される(民法第415条第1項)
- 暴力行為などにより他者の生命や安全を脅かした場合、仮処分による差し止めの対処となる(民事保全法第23条第2項)
- 内容により強要罪・威力業務妨害罪・住居侵入罪・公務執行妨害罪に問われる(いずれも刑法)
なお、違法なストライキに参加した労働者が解雇された場合、単に参加しただけなら懲戒権・解雇権の濫用と見なされて無効になる可能性があります(労働契約法第15条、第16条)。
ストライキは労働組合に許された正当な行為
ストライキは憲法で団体行動権として労働者に保障されている権利です。適法なストライキを実施すれば法律で保護されます。
ただし、日本ではストライキの発生件数がピーク時に比べ激減しており、近年は労使協議で意見を調整するのが一般的です。
ストライキを検討する場合は、団体交渉を尽くしたか、適法なストライキを実施できるかを確認する必要があります。ストライキについて理解を深め、今後の組合運営に生かしていきましょう。