春闘とは?目的、交渉内容、流れについて解説

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春闘とは

春闘、正式には「春季生活闘争」と呼ばれ、日本特有の労働運動の一環です。厚生労働省によると次のように定義されています。

各企業等の労働組合は、全国中央組織の労働団体や産業別組織の指導・調整のもとに、毎年春に賃金引き上げ等を中心とする要求を各企業等に提出し、団体交渉を行います。これを一般に「春闘」と呼んでいます。

出典:厚生労働省

厚生労働省では、労使交渉の実情を把握するため、民間主要企業の春季賃上げ要求・妥結状況を毎年、集計しています。
→令和5年「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況

毎年2月頃に始まり、ニュースで頻繁に取り上げられる春闘は、多くの企業にとって新年度の始まりである4月に向けて、労働組合が労働条件に関する要求を企業側に提出し、使用者(経営者)との間で交渉を行い、決定するプロセスを指します。日本の多くの企業が会計期間を4月1日から翌年の3月31日までとしているため、労働組合はその直前の2月から3月にかけて、次年度の賃上げや労働条件の改善について一斉に要求を出し、交渉を行います。

春闘は、まず自動車や電気機器などの大手製造業が交渉を開始し、労働条件や賃金の基準が設定され、方向性が固まるところから始まります。その後、鉄道や電力会社などの非製造業が交渉に入ります。大手企業の春闘が終わると、その影響を受けて中小企業の労働条件改善の交渉が行われ、概ね3月頃には終了します。また、公務員にも春闘は存在し、彼らも同様に労働条件の改善を目指して交渉を行います。

2024年の春闘では、国際的な人材獲得競争や国内の人手不足、インフレ経済への移行を背景に、大手企業から中小企業まで積極的な賃上げが実施されました。日本労働組合総連合会が2024年7月に発表した最終集計によると、基本給を底上げするベースアップ(ベア)と定期昇給を合わせた平均賃上げ率は、1991年(5.66%)以来33年ぶりの高水準となる5.1%でした。

春闘は、労働者の生活水準の向上と労働環境の改善を目指す重要なプロセスであり、その結果は労働市場全体に影響を与えるため、社会全体から注目されています。

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春闘の目的

春闘の目的は、労働者の労働条件や職場環境を改善・向上させることです。そのためには、労働者と使用者(経営者)との間での話し合いが欠かせません。しかし、使用者と労働者では、どうしても使用者側の立場が優位に立ちやすいという現実があります。

そこで労働者が企業側と対等に職場環境の改善について交渉できるよう、憲法労働組合法では労働者に対して集団で交渉する権利が保障されています。

ベアとは?

春闘に関連する用語として「ベア」を紹介します。

ベアとは、「ベースアップ(Base Up)」の略称で、賃金の基本給を恒常的に引き上げることを指します。企業における賃金交渉の一環として、労働者の基本給そのものを底上げすることで、生活水準の向上やインフレに対応することを目的としています。

ベアは、毎年の春闘で注目される項目の一つであり、ボーナスや一時金と異なり、基本給が増加するため、長期的な労働者の収入に直接影響を与えます。

春闘をおこなう労働組合組織

春闘をおこなう労働組合は「全国的な労働組合組織」、「産業別組織」、「企業別労働組合」の3つに分類されます。

春闘を行う労働組合組織 説明
全国組織 全国の労働組合運動の一体的な推進をはかる労働組合組織。代表的な組織には下記のようなものがあり、労働者一人でも加入できる。

  • 日本労働組合総連合会(連合)
  • 全国労働組合総連合(全労連)
  • 全国労働組合連絡協議会(全労協)
産業別労働組合 全国的な労働組合組織の傘下にあり、特定の産業に特化した労働組合組織。
企業別労働組合 企業内で組織する労働組合組織。

春闘の歴史

春闘は、戦後の日本における労働運動の発展とともに形成されました。特に1950年代に入ると、経済の高度成長期に労働者の賃金や労働条件の改善を求める動きが活発化し、春闘はその象徴的な存在となりました。春闘の起源は、1955年に全日本金属労働組合が行った賃金闘争に遡るとされています。以降、春闘は毎年恒例の労働運動として定着し、多くの産業や企業で賃金交渉の場となっています。

春闘の歴史を振り返ると、経済状況や政治状況によってその性格が変化してきたことがわかります。例えば、1970年代のオイルショックや1990年代のバブル崩壊後の経済停滞期には、賃金引き上げの要求が抑えられる傾向にありました。一方で、経済が好調な時期には積極的な賃金アップが要求されることもあります。

厚生労働省が発表した「労働経済の分析」(労働経済白書)によると、春闘における賃金交渉の結果は、その後の日本の労働市場や消費動向に大きな影響を与えるとされています。この報告書では、春闘が労働者の賃金や労働条件の改善に寄与するとともに、企業の人材確保や従業員満足度の向上にも繋がることが指摘されています。

春闘は日本独特の労働運動の形態であり、その歴史や成果は日本の労働市場や経済成長に大きな影響を与えてきました。毎年の春闘の動向は、今後も日本の社会や経済において重要な指標の一つであり続けるでしょう。

春闘の歴史とその経済的評価について「春闘の歴史とその経済的評価」(日本経済研究センター、齋藤潤、2023年)の記事では、春闘が日本の経済成長と労働者の生活水準向上にどのように貢献してきたか、そして時代とともにその役割がどのように変化してきたかを明らかにしています。

春闘で要求・交渉・決定する内容

春闘では、組合員の生活水準の向上と働きやすい環境の実現を目指して、以下のような内容が主に要求・交渉・決定されます。

基本給やボーナスといった賃金の引き上げ

賃金の引き上げは春闘の中心的なテーマです。物価上昇や生活コストの増加に対応するため、基本給の増額やボーナスの引き上げが要求されます。

例えば、ある年の春闘では、全体で3%のベースアップ(基本給の引き上げ)が目標とされ、多くの企業がこの要求に応えました。

このような賃金の引き上げは、労働者のモチベーション向上にも寄与し、企業の生産性向上にも繋がると考えられます。

長時間労働の是正

働き方改革の一環として、長時間労働の是正も重要な議題です。残業時間の上限設定や、休日の確保などを通じて、労働者の健康とワークライフバランスの向上を目指します。

具体的には、残業時間を月45時間以内に抑えるよう交渉されることがあります。

これにより、労働者は仕事以外の時間を家族や趣味、自己啓発に充てることができるようになり、生活の質が向上します。

育児・介護に関する制度の充実化

育児や介護を必要とする労働者の支援を強化するため、育児休業や介護休業の制度の充実が求められます。

例えば、育児休業の取得期間の延長や、介護休業中の給付金の増額などが要求されることがあります。

これにより、労働者は家庭と仕事の両立がしやすくなり、特に女性労働者の職場復帰やキャリア継続を支援することができます。

非正規雇用の待遇改善

非正規雇用者の待遇改善も春闘で取り上げられるテーマの一つです。正規雇用との賃金格差の是正や、社会保険の適用拡大などが交渉の対象となります。

これにより、非正規雇用者の安定した雇用と生活の向上が図られます。非正規雇用者の待遇改善は、労働市場全体の公正性を高め、組織内のモチベーション向上にも繋がります。

企業間の格差是正

大企業と中小企業間の賃金や労働条件の格差是正も春闘の議題です。中小企業の労働者に対しても公平な待遇を確保するため、賃金の底上げや福利厚生の充実が要求されます。

これにより、中小企業でも優秀な人材を確保しやすくなり、企業の競争力向上に寄与します。

ダイバーシティ(多様性)の推進

ダイバーシティの推進も春闘で取り組まれる重要なテーマです。性別、年齢、国籍などに関わらず、すべての労働者が平等に扱われ、多様な価値観が尊重される職場環境の実現を目指します。

例えば、女性や外国人労働者の活躍推進や、LGBTQ+に対する理解促進などが具体的な取り組みとして挙げられます。

これにより、組織内のイノベーションが促進され、企業の持続可能な成長に繋がります。

春闘における付帯要求とは

春闘における付帯要求とは、賃金引き上げや労働時間短縮といった主要な要求事項に加えて、労働組合が提出する追加の要求のことを指します。

これには、職場の安全性向上、福利厚生の充実、教育訓練の機会提供など、労働者の働きやすさや生活の質を向上させるための様々な項目が含まれます。

例えば、ある企業の労働組合が、職場内の健康管理施設の設置や、子育て支援のための託児所の設置を付帯要求として提出することがあります。

これらの要求は、労働者の仕事と私生活のバランスを改善し、長期的なキャリア形成を支援することを目的としています。

春闘のスケジュールと流れ

春闘は、日本の労働運動において年間を通じて最も重要なイベントの一つであり、そのスケジュールと流れは一定のパターンに従います。

政府の経団連に対する賃上げ要請

春闘の開始前、政府は経済団体、特に経団連に対して賃上げを要請することがあります。

これは、経済の活性化や消費の促進を目的としており、労働市場全体の賃金水準に影響を与えることを意図しています。

政府からのこのような要請は、労使間の交渉における一つの指標となり得ます。

春闘の全体方針を発表

春闘の本格的な開始に先立ち、労働組合はその年の春闘における全体方針を発表します。この方針には、賃金引き上げの目標率や労働条件の改善など、その年の主要な要求が盛り込まれます。

以下は、連合と全労連が2024年に出した春闘の全体方針です。

全体方針は、後続の交渉の指針となり、組合員に対する統一されたメッセージを提供します。

産業別組織における要求水準の決定

全体方針の発表後、各産業別組織は、その方針に基づいて具体的な要求水準を決定します。これには、賃金引き上げの具体的な率や、労働時間の短縮など、産業特有の要求が含まれることがあります。

産業別組織による要求水準の決定は、企業別労働組合が自社の経営陣と交渉を行う際の基準となります。

参考)

企業別労働組合による要求内容の決定

産業別組織による要求水準の決定を受けて、各企業別労働組合は自社における具体的な要求内容を決定します。これには、賃金引き上げの具体的な額や、福利厚生の改善、労働環境の改善などが含まれます。

企業別労働組合は、これらの要求をもって経営陣との交渉に臨みます。

企業との労使交渉・妥結

要求内容が決定された後、企業別労働組合は経営陣との労使交渉に入ります。交渉は数回にわたって行われることが多く、双方の主張と譲歩を繰り返しながら進められます。

最終的には、賃金や労働条件に関する新たな合意に至り、妥結が成立します。この合意は、その後の労働者の待遇や労働環境に直接的な影響を与えることになります。

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この記事を書いた人

筑波大学国際総合学類卒業。2023年にスタメンに入社し、人事労務・情報セキュリティに関するデジタルマーケティングを担当。 現在は「for UNION」の立ち上げメンバーとしてメディア企画に従事。

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