労働組合が効果のある要求書を作るには?重要性と作成・交渉のポイントを解説

要求書は、労働組合が企業との交渉を開始するに当たって重要な文書です。ただ、役員になって日が浅いと、どう作成すればよいのか分からないかもしれません。初めてでも方針を立てて要求書を作成できるよう、要求書のフォーマット例を交えて含めるべき項目について解説します。
労働組合が要求書をしっかりと作る必要性
労働組合法第7条第2号では、使用者が団体交渉を正当な理由なく拒否することが禁止されています。これにより、使用者には誠実な交渉義務が課せられます。労働組合には団体交渉申し入れが保障されており、使用者が正当な理由なく応じない場合は、「不当労働行為」として労働委員会に申し立てができる仕組みです。
労使交渉において、要求書は単なる提出書類ではありません。組合の意思を反映して、会社側に「正式な交渉開始」の意思を示す公式文書です。提出に当たっては、日時・場所などの枠組みを事前に提示する必要があります。
このように要求書を正式な形で作成・提出することで、交渉を開始する労働組合の意思を使用者へ確実に届けられるのです。
初めてでも迷わない要求書作成のポイント
要求書は、労働者の実情を会社に理解してもらい、具体的な改善策を求めるためのものです。ただ、要求事項だけを羅列すればよいわけではありません。では、具体的に何を盛り込めばよいのでしょうか。
不当労働行為について労働協約で文書化することを求める
不当労働行為は労働組合法で禁止されており、実務上も口頭や暗黙の了解で成立していることが多いでしょう。
ただ、現状で不当労働行為についての労働協約を締結していない場合は、次の要求書の項目に入れておいた方が確実です。今後の不合理な団交拒否など、使用者とのトラブルを防ぐ土台がつくれます。
組合員の声から盛り込むべき要求項目を整理する
要求書の核は「組合員からの要望」です。アンケートや会議で多数意見を収集し、要求項目を「賃金」「労働条件」「福利厚生」「配置など制度設計」に整理しておくと、優先順位を付けやすくなります。TUNAG for UNIONのような、労働組合向けアプリのアンケート機能を活用すると効率的です。
ほかの労働組合の要求書も、要求項目の参考にしましょう。例えば東京清掃労働組合は2024年に賃金確定交渉を実施し、中高年齢層の賃金改善や人事制度の整備を求めています。他の労働組合でも、組合活動における会社設備の利用など、具体的な要求項目を掲げる例があります。
参考:2024年度賃金確定第1回団体交渉を実施 : 東京清掃労働組合
提出手続きや記録管理も交渉準備の一部と捉える
結成通知書・団体交渉申入書・要求書は「3点セット」で、交渉の公然化・正式化の証拠になります。結成と同時に提出するケースも少なくありません。ただ作成して提出するだけでは、役員の仕事として不十分です。
提出時には「誰が」「いつ」「どこで」「誰に」手渡したか、書面やメールなどで記録を残しましょう。要求書の再提出や保存についてのルールも組合規約に定め、組合運営の透明性を維持することも役員の責務です。
要求書のフォーマット例
労働組合の要求書には、ある程度決まったフォーマットがあります。以下のフォーマットを活用すれば、初めての作成でもスムーズに準備を進められるでしょう。
○年○月○日 ○○○○株式会社 代表取締役社長 ○○○○殿 ○○○○労働組合 執行委員長 ○○○○ 印 要求書 ○○労働組合は○月○日、第○回団体交渉における要求を下記のように決定いたしました。労働者の実情を十分にご理解いただいた上、誠意を持って応えるよう要請いたします。 記 1.第○回団体交渉において、「不当労働行為」を行わないことに関して、労使で合意しているとの認識に基づき、改めて労働協約を締結すること。 2.(要求のテーマ1)①(具体的な要求内容)②(具体的な要求内容)③(具体的な要求内容)④(具体的な要求内容)… 3.(要求のテーマ2)①(具体的な要求内容)②(具体的な要求内容)③(具体的な要求内容)④(具体的な要求内容)… 4.以上の要求について、○年○月○日までに回答されること。 以上 |
作成後には、誤字脱字がないか、日本語として不自然な表現がないかをチェックする必要があります。1人では見逃してしまうケースも多いので、複数人で校正するのが理想です。
要求が通るために労働組合が押さえておきたい視点
要求書にも具体的な要求内容は記載しますが、団体交渉で労働組合の希望が通るには工夫や配慮が必要です。要求書提出の後に待っている団体交渉に向けて、役員として把握しておきたい視点を解説します。
要求の背景を補足すると使用者の理解を得やすい
要求書に記載した内容について、労働組合側は団体交渉の場で理由や背景を説明する必要があります。使用者としても、要求の目的・背景を説明することで要求の妥当性を理解しやすくなるはずです。
例えば、勤務間インターバル制度の導入を要求書の項目に含めた場合、法令準拠と職員の健康維持が目的と明確に伝えましょう。東京清掃労働組合など、他組合や自治体における類似制度の導入実績が見つかれば、説得力を高める資料として活用できます。
要求内容が組合員以外にも影響する場合は要注意
要求が組合員以外の従業員や利用者に影響を与えるものだった場合、補完策も提案する必要があります。休暇を増やす要求をした場合、人手が足りなくなったときの代替体制・シフト調整案を提示するなどが例です。役所などでは利用者にも波及する要求があるため、労働時間の短縮などの要求については、利用者の利便性にも配慮した代替案が求められるでしょう。
郡山市職員労働組合の2024年春季要求書では、「誰もが希望すれば育児休業・介護休業が取得できる環境を整えること。特に、育児休業取得を見越した人員を正規職員として採用すること。」として、単に休業できることだけでなく、利用者やほかの従業員への影響も考慮した正規職員の採用も求めています。
このような要求内容は、役所だけでなく人手不足に悩む企業の労働組合にとっても参考になるはずです。
団体交渉では冷静な態度と事前準備が交渉力を高める
要求書に記載した項目を使用者に前向きに検討してもらうには、交渉時の姿勢や交渉前の準備も大切です。冷静かつ粘り強い姿勢で交渉し、会社側の反応を分析しながら次の対応を検討しましょう。
想定される問答に対しても説得力のある資料を準備しておくと、交渉中に当惑してしまうのを防げます。要求書の作成・提出を含めた「交渉前の準備段階」は、労働組合の要望を通すためには欠かせません。
正確な要求書を作成して信頼ある労使交渉を
労働組合が使用者に提出する要求書は、交渉開始の合図となるものです。不当労働行為について労働協約が締結されていないなら、冒頭に締結の要求も含めた上で、組合員の声から整理した要求項目を記載しましょう。
誤字脱字・日本語の誤りは信頼感を損なうため、要求書は正確性を意識して丁寧に作成する必要があります。また、要求書は正式な書面なので、渡した人物や渡した相手・日時・場所なども記録しておきましょう。
正しく要求書を作って準備を進めることで、団体交渉が労働条件の改善につながりやすくなります。