労働組合の加入率が過去最低に。若手世代への伝え方を見直して組織を未来へ

労働組合の加入率は、日本で年々減少しています。加入率の低下や若手の不参加に悩み、打開策を探している組合も多いでしょう。加入率を上げるには、何をすればよいのでしょうか。厚生労働省や連合の調査を整理し、加入率向上のために労働組合ができることをまとめました。
全国の労働組合加入率から見る現状
自組合の加入率が低い現状に悩んでいる場合は、まず調査から見る全国の動向を把握しましょう。今、労働組合はどのような状況にあるのでしょうか。厚生労働省の調査から分かる労働組合の加入率や、連合の調査で判明した若手世代に見られるギャップを解説します。
労働組合全体の加入率は16.1%で過去最低
「令和6年労働組合基礎調査の概況(厚生労働省)」において、組合加入率は「推定組織率」という言葉で表されています。推定組織率は、労働組合員数を雇用者数で割ったものです。
労働組合全体の組合加入率は、2024年6月時点で16.1%と前年より0.2ポイント低下し、過去最低を記録しました。全国的に、労働組合に加入する人の割合は年々減っています。労働組合員数は991万2,000人、前年より2万5,000人(0.3%)減少という結果です。
女性の労働組合員数は350万6,000人で、前年より3万2,000人(0.9%)増えました。ただ女性の雇用者における労働組合の加入率は、前年と同水準にとどまっている状態です。また、下部組織を持つ「単一労働組合」の数は2万2,513で、組合数自体も減少しています。
参考:令和6年労働組合基礎調査の概況 「概況版」P.2〜3|厚生労働省
パートタイム労働者の加入率は8.8%と過去最高に
「令和6年労働組合基礎調査の概況」によれば、パートタイム労働者の組合加入率は雇用者全体とは違った動きを見せていることが分かります。フルタイムも含めた全ての雇用者の組合加入率が低下しているのに対し、パートタイム労働者の組合加入率(パートタイム労働者の労働組合員数÷雇用者数)は8.8%に上昇しました。
この数値は過去最高であり、パートタイム労働者の労働組合員数は全ての労働組合員数の14.9%を占めています。自分の組合の加入率を上げるには、パートタイム労働者が加入するハードルを下げることも鍵となるかもしれません。
参考:令和6年労働組合基礎調査の概況 「概況版」P.4|厚生労働省
若年層は組合認知率と加入行動にギャップ
連合が実施した「連合および労働組合のイメージ調査2025」からは、20〜30代の若手世代には組合に対する認知と加入行動にギャップが見られます。
勤務先に組合がある人の中で、勤務先で組合に加入していると答えた人の割合は、20代・30代がほかの世代と比べて多いという結果になりました。一方「加入しているかどうか分からない」と答えた人も、若い世代ほど多いという結果が出ました。
労働組合の認知率は全世代で81.8%とかなり高めです。ただ20代以下では7割程度と低めであることから、若手世代には労働組合に関心がない層も一定数以上いると考えられます。
また、この調査では、全年代で仕事の不満について労働組合に相談したと答えた人はわずか4.2%でした。その理由に「解消を諦めている」「解消の手段や労働そのものの知識がない」など、労働組合ができることを認知していない人がいることを示唆する回答も見られます。
特に若手世代は知識が不足しやすく、結果として労働組合への無関心につながっている可能性があるでしょう。
参考:連合「連合および労働組合のイメージ調査2025」P.6、 P.7、 P.9|世論調査
加入率低下が労働組合の運営に与える影響
日本の労働組合は、加入率の低下によって危機的状況を迎えていると言えます。では加入率が下がると、労働組合にはどのような影響が出るのでしょうか。役員として看過できない、大きな二つの問題を紹介します。
組合員数の減少が団体交渉力を低下させる
団体交渉において、数は重要な要素です。組合員数が少なくなると、労働組合の交渉力が下がって賃上げや労働条件の改善を実現しにくくなります。成果が上がらなければ労働組合は本来の役割を果たせず、労働者は組合への興味を失い、さらに加入率の低下につながるという負の連鎖が起きるでしょう。
結果として雇用形態や所属する企業の規模など、属性によって組合に守られない労働者が多数出てきます。労働組合はやがて存在意義を失い、NGOやNPO・行政などによって組織化されていくことになるのです。
若手の不参加が組合の継続を困難にする
若手の従業員が労働組合に参加しなければ、定年退職によって脱退する組合員の数を補充できません。結果として組合の加入率はどんどん低下していきます。
こうして加入率が下がれば労働組合は高齢化し、役員が高齢になって退任する際に引き継ぐ若手がいないという状態になりかねません。役員のポジションを引き継ぐ人がいなければ、労働組合の運営は立ち行かなくなります。組合としての役割を果たせなくなり、加入率が低下していくという負のスパイラルに陥るでしょう。
加入率を高めるために組合ができること
日本全体で組合加入率が下がっている中、自分の組織でも1番の課題は加入率の低下だという労働組合も多いのではないでしょうか。加入率を上げるためにできることは何なのか、重要なポイントを二つ解説します。
全国データと比較した自組織の現状を整理する
労働組合が加入率を上げるには、従業員に危機感を持ってもらう必要があります。まず労働組合の加入率が低ければ、交渉力が下がって賃上げや労働環境の改善要求が通りにくくなることを発信しましょう。全国の加入率などのデータと自組織のデータを照らし合わせ、自組織が低ければより危機感を持ってもらいやすくなります。
若手世代の加入率が伸び悩んでいるなら、全国的には20代・30代の若手世代が多く企業別労働組合に加入しているという「連合および労働組合のイメージ調査2025」のデータが、加入の後押しとなる可能性があるでしょう。既にある調査データを労働組合の存在意義とともに伝えると、説得力のある発信ができます。
若手に届くテーマや発信手段を工夫して訴求する
労働組合の加入率向上には、今後中核を担っていく若手世代へのアプローチが欠かせません。「連合および労働組合のイメージ調査2025」で、企業別労働組合に加入している人の中で20代・30代の若手世代が多いことから、発信手段やアプローチの仕方が適切なら加入してくれる可能性があると考えられます。
同調査で連合の認知経路(20代)の2位に「X」があることからも、若手世代へのアプローチにはSNSでの発信が有効でしょう。社内SNSで労働組合の情報が発信できる状態であれば、加入率向上の取り組みに活用できます。
発信する活動のテーマにも工夫が必要です。給与はもちろん、若手が興味を持ちやすいワークライフバランスなどの問題について、交渉した成果を発信すると興味を持ってもらいやすくなります。
参考:連合「連合および労働組合のイメージ調査2025」P.12|世論調査
加入率向上が今と未来の労働組合を支える
日本の労働組合は加入率の低下により、力を失いつつある状態です。企業の労働組合においても、加入率の低下は交渉力の衰えや担い手の不足など深刻な問題の要因となります。組合として加入率を上げることは、喫緊の課題です。
若手世代へのアプローチは、高齢化している組合にとって特に重要です。若手世代の中には、「興味さえ持てば加入する可能性がある」人が一定数以上いると考えられます。発信手段やテーマを工夫し、若年層にも労働組合の存在意義を伝えて加入率の向上を目指しましょう。