労働組合と企業の交渉決裂の原因や、組合が講じるべき対策について解説

労働組合と企業の団体交渉は、労働条件の改善や権利の確立を目的とする重要な場です。しかし双方の意見が対立し、合意に至らない場合、交渉が決裂することもあります。団体交渉の流れ、決裂の原因やその後の対応策について、あらかじめ理解しておきましょう

目次

団体交渉の決裂とは?

団体交渉の決裂とは労働組合と企業が、労働条件の改善や賃上げなどの協議をしたものの、合意に至らず交渉が終了した状態を指します。

労働組合法に基づき、企業には労働組合と誠実に交渉する義務がありますが、双方の主張が大きく異なる場合、交渉がまとまらず決裂するケースも珍しくありません。まずは団体交渉の流れから、詳しく見ていきましょう。

団体交渉の流れ

団体交渉は通常、労働組合の申し入れから始まります。労使間で事前の打ち合わせを行い、交渉の日時や場所・出席者などを決定します。この段階で双方の要望を調整し、交渉の環境を整えることが重要です。

実際の交渉では労使双方が主張を提示し合い、互いに話し合って合意点を探ります。事前に議題を共有しておくことで、より効率的な交渉が可能になりますが、交渉が難航し、最終的に決裂してしまう場合もあります。

企業には誠実交渉義務がある

労働組合法において、企業は誠実に団体交渉に応じる義務が課せられています。これは労働組合が正当な要求を持って交渉を求めた際、企業側が無視したり、一方的に交渉を打ち切ったりすることを防ぐためのものです。

誠実交渉義務には、組合の要求に対して具体的な説明をすることや、合理的な理由なく交渉を拒否しないことが含まれます。もし企業がこの義務を果たさない場合、労働組合は不当労働行為として、労働委員会に救済を申し立てることが可能です。

企業は組合の要求を全て受け入れる義務はありませんが、誠意をもって交渉に臨み、合理的な理由なく交渉を拒否したり、形式的な対応に終始したりすることは許されません。これは労使双方が対等な立場で交渉するための重要な法的基盤となっています。

合意が得られず交渉が決裂するケースも

労働組合は企業と団体交渉をする権利を有しており、企業側は原則として拒否できませんが、上記のように合意が得られず、交渉が決裂するケースも珍しくありません。特に、経済環境が厳しい時期や、企業の経営方針と組合の要求に大きな隔たりがある場合、決裂のリスクが高まります。

交渉が決裂した場合、組合は次の行動を模索する必要がありますが、必ずしも労使関係の終わりを意味するわけではありません。一時的な中断の後、状況の変化や新たな提案によって再び交渉のテーブルに着くことも多くあります。

しかし決裂したままの状態が長期化すると、法的紛争へと発展せざるを得ない可能性もあるため、できるだけ早期の解決が望ましいといえます。

交渉が決裂する主な原因とは?

団体交渉が決裂する背景には複合的な要因があります。最も一般的なのは経済的要因で、企業の業績悪化や市場環境の変化により、組合の要求に応えられない場合です。企業側は経営の存続を優先し、組合側は労働者の生活を守るという立場から、妥協点を見出せないことがあります。

また、コミュニケーションの不足も大きな原因となりがちです。企業側が経営状況や将来の計画について十分な情報開示をしなかったり、組合側が組合員の実態や要求の背景を効果的に伝えられなかったりすると、相互理解が進まず不信感が生まれます。

特に、両者の間に過去から積み重なった不満がある場合、些細な意見の相違が大きな対立に発展するケースは珍しくありません。他にも外部環境の変化や時間的制約なども、交渉決裂の一因となり得ます。

団体交渉が決裂したらどうなる?

団体交渉が決裂した場合、労働組合にはさまざまな対応策があります。状況に応じて、以下のような選択肢を柔軟に組み合わせることが重要です。

ストライキや争議行為の検討

交渉決裂後に取り得る直接的な対抗策が、ストライキなどの争議行為です。ストライキは労働者の団結力を示し、企業に圧力をかける有効な手段です。例えば、製造業で生産ラインを止めることで、企業に経済的損失を与え、交渉再開を促せる可能性があります。

ただし、ストライキには法的要件があり、事前に組合員の同意を得なければいけません。また、長期間の対立は組合員の生活にも影響するので、慎重な判断が必要です。それでも過去にストライキで企業が譲歩した事例もあり、状況によっては有効な選択肢ではあります。

労働委員会への申し立て

労使交渉が決裂し、企業が誠実交渉義務を果たしていないと組合が判断した場合、労働委員会へ申し立てる道があります。労働委員会は不当労働行為の救済を担う機関で、中立的な第三者機関として、企業に交渉再開を命じることが可能です。

実際、企業が交渉を拒否したケースでは、委員会が介入し、話し合いの場を設けた例があります。ただし申し立てには証拠が必要で、交渉記録や企業側の対応を示す資料を、準備しなければいけません。手続きに時間がかかる場合もありますが、法的根拠を持って対抗する手段として有効です。

広報活動や社会的圧力の活用

交渉決裂後の有効な戦略として、広報活動を通じた社会的圧力の活用もあります。組合の主張や企業側の対応について、メディアや市民社会に訴えかけることで、企業イメージへの影響を通じた間接的な交渉力を得る方法です。

例えば、記者会見の開催やプレスリリースの発行、SNSなどを活用した情報発信が考えられます。また、消費者団体や地域コミュニティ、政治家や行政機関への働きかけも効果的です。

ただし事実に基づかない誇張は逆効果となり、組合の信頼を失う恐れもあるので、正確な情報発信が必要です。労働組合の主張が社会的支持を得られれば、企業が交渉のテーブルに戻る可能性が高まります。

労働審判や訴訟

最終手段として、労働審判や訴訟に訴える選択肢もあります。労働審判は、通常の裁判よりも迅速な解決を目指す制度で、申立てから原則として3回以内の期日により、調停での解決か審判での判断が下されます。

一方、訴訟はより正式な法的手続きで、時間と費用がかかりますが、判決で強制力ある解決が得られるのが特徴です。過去には交渉決裂後に訴訟で労働組合が勝訴し、企業に補償を命じられた例もあります。ただし、法廷闘争は企業との関係悪化を招く可能性が高いため、慎重な判断が必要です。

団体交渉の決裂を防ぐための対策

できる限り団体交渉の決裂を防ぐには、事前の準備と交渉過程での戦略的対応が不可欠です。まず、交渉に入る前に情報収集と分析を徹底し、企業の財務状況や業界の動向、他社の労働条件などを把握しておきましょう。過去の交渉事例も分析し、企業の立場や経営状況を踏まえた提案を準備することが大切です。

また、交渉中は冷静な対応を心がけ、対話を重視する姿勢を示す必要があります。感情的対立を避け、データや具体的事例に基づいて論理的に説明しましょう。相手の立場や制約を理解しようとする姿勢を示しつつ、主張の背景にある組合員のニーズや懸念を、効果的に伝えることが大事です。

入念に準備をして団体交渉に臨む

団体交渉が決裂した場合、ストライキや労働委員会の申し立てなど、さまざまな対応が考えられますが、労使双方にとって望ましくない結果をもたらす可能性もあります。特に、交渉が長期化すると労働者の負担が増し、企業側の経営にも悪影響を及ぼしかねません。

できるだけ決裂を防ぎつつ、交渉における説得力を高めるためには、具体的なデータや資料を準備し、組合の要求の正当性や実現可能性を示すことが重要です。同時に、企業側の立場や制約についても理解を深め、双方が受け入れ可能な妥協点を見出す視点を持つ必要があります。

交渉の進め方を戦略的に検討し、感情的な対立を避けながら、建設的な話し合いを重ねることが大切です。双方が互いの立場を尊重し、共通の利益を追求する姿勢を持つことで、より良い労使関係を築けるでしょう。

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この記事を書いた人

労働組合にて専従(中央執行書記長)を経て、現職。

<セミナー登壇歴>
◼︎日本経済新聞社
『労組をアップデートせよ 会社と並走し、 組合員に支持される労働組合の作り方』

<メディア掲載>
◼︎日本経済新聞社
『​​​​団体契約を活用して労組主導で社員の成長を支援 デジタルを駆使して新しい組合像を発信する』

◼︎NIKKEI Financial
『「知らない社員」減らす 労組のSNS術』

◼︎朝日新聞社
『歴史的賃上げ裏腹 悩む労組 アプリ活用』

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