労使交渉とは?労働組合の役割と進め方、主な議題まで分かりやすく解説

労使交渉では、何を議題にすべきか迷う方や、交渉内容への関心をどう高めるかに悩む方も多いのではないでしょうか。労使交渉は労働組合の最も重要な活動の一つですが、その意義や進め方を正しく理解することで、組合員との信頼関係を深める絶好の機会にもなります。
本記事では、労使交渉の基本から具体的な議題、成功のポイントまでを分かりやすく解説します。

目次

労使交渉とは何か?その基本と意義

労使交渉を効果的に進めるには、まずその本質と法的な位置付けを理解することが重要です。労使交渉がなぜ必要なのか、どのような権利に基づいて行われるのかを確認していきましょう。

労使交渉の定義と目的を理解する

労使交渉とは、企業と労働組合が、賃金、労働時間、福利厚生、職場環境などの労働条件について交渉・協議を行う場のことです。

労使交渉は年間を通じてさまざまな議題について実施されます。代表的な例として、春季労使交渉では新年度となる4月に向けて、労働組合が賃金などの労働条件について使用者(経営者)と交渉して決定します。

労使交渉における法的根拠

労使交渉は労働組合法によって保障された労働者の重要な権利です。法的な根拠を理解することで、より自信を持って交渉に臨むことができるでしょう。

労働組合法に基づく権利

  • 団結権:労働者が組合を結成する権利
  • 団体交渉権:使用者と対等に交渉する権利
  • 団体行動権:ストライキなどの争議行為を行う権利

特に重要なのが「不当労働行為」の禁止です。労働組合法第7条では、使用者が以下の5つの行為を行うことを禁じています。

  • 組合員であることを理由とした不利益取扱い
  • 労働組合に加入しないことを雇用条件とすること(黄犬契約)
  • 団体交渉の正当な理由のない拒否
  • 組合活動への支配・介入、組合運営への経費援助
  • 労働委員会への申立てや発言を理由とした報復的不利益取扱い

法的な権利を正しく理解することで、対等な立場での交渉が可能になります。

参考:労働組合|厚生労働省

参考労働組合法第7条|e-Gov 法令検索

団体交渉と労使協議会の違い

労使間の話し合いには「団体交渉」と「労使協議会」という2つの形態があります。この違いを理解することで、適切な場を選択できるでしょう。

団体交渉と労使協議会の比較

団体交渉労使協議会
法的根拠労働組合法で保障労働協約等で設置
目的労働条件の決定・変更情報共有・意見交換
拘束力合意事項は労働協約となる協議結果に法的拘束力なし
議題賃金・労働条件等経営方針・職場環境等
頻度必要に応じて開催定期的に開催

団体交渉は『決める場』、労使協議会は『話し合う場』として使い分けることで、より円滑な労使関係の構築が可能になります。

労使交渉の主な議題

労使交渉では組合員の働き方と生活に関わる幅広い議題が取り扱われます。具体的にどのような内容が交渉されるのかを詳しく見ていきましょう。

賃金・待遇に関する事項

賃金交渉は労使交渉の中核となる議題です。組合員の生活に直結するため、最も関心の高い分野でもあります。

賃金交渉の主な内容

  • 基本給の引き上げ:ベースアップによる全体的な底上げ
  • 賃金体系の見直し:職能給、成果給のバランス調整
  • 昇給基準の明確化:昇進・昇格の透明性向上
  • 諸手当の新設・拡充:住宅手当、家族手当、資格手当等
  • 賞与の改善:支給月数や算定基準の見直し

賃金交渉では、単に金額の引き上げだけでなく、組合員のモチベーション向上につながる制度設計も重要な要素となります。

労働時間・労働環境・安全衛生に関する事項

働き方改革の推進により、労働時間や職場環境に関する交渉の重要性が高まっています。

労働環境改善の具体例

  • 労働時間の短縮:残業時間の上限設定、有給休暇取得促進
  • 働き方の多様化:テレワーク制度、フレックスタイム制の導入
  • 職場環境の整備:休憩室の改善、空調設備の更新
  • 安全衛生の強化:安全教育の充実、健康診断の拡充
  • メンタルヘルス対策:カウンセリング制度、ストレスチェックの実施

特にテレワークについては、リモートワークの普及に伴い、労働者・労働組合の権利保護が重要な課題となっています。

組合はテレワーク協定をめぐる交渉において、組合員の権利を保護するためのルールを定める必要があります。

人事異動やキャリア形成に関する事項

組合員の将来に関わる人事制度も重要な交渉議題です。透明性と公平性を確保することで、組合員の安心感と成長意欲を高めることができます。

人事・キャリア関連の交渉内容

  • 人事異動の基準明確化:異動通知期間、配慮事項の設定
  • キャリア開発支援:研修制度の充実、資格取得支援
  • 育児・介護との両立:配置転換への配慮、短時間勤務制度
  • 定年後の雇用:再雇用制度の条件改善
  • 評価制度の透明化:人事評価基準の明示、フィードバック制度

キャリア形成支援は組合員の長期的な満足度向上につながる重要な投資といえるでしょう。

労使交渉の進め方と成功のポイント

効果的な労使交渉を実現するには、適切な準備と戦略的な進行が必要です。成功につながる具体的な方法を確認していきましょう。

労使交渉の基本的な流れを押さえる

労使交渉には一定の流れがあります。この流れを理解することで、計画的で効果的な交渉が可能になります。

労使交渉の標準的な流れ

  1. 事前準備段階(交渉開始2~3カ月前)
  2. 要求書提出(交渉開始1カ月前)
  3. 交渉実施(1~3カ月間)
  4. 妥結・労働協約締結

事前準備の段階では、組合員の意見を集約するためのアンケート実施や交渉する組合員の選出、企業側との交渉する日時・場所の決定が行われます。

交渉については、企業と組合の間で合意点を模索する場面も多くなります。そして合意に至れば妥結され、労働協約を締結し、その内容を反映する義務が企業には発生します。

交渉準備で押さえるべきポイント

労使交渉の成功は準備段階で決まります。十分な準備により、説得力のある交渉が可能になるでしょう。

重要な準備事項

  • データ収集と分析:同業他社の労働条件、業界動向の把握
  • 組合員の声の集約:アンケートや懇談会での要望収集
  • 財務状況の把握:会社の業績と支払能力の分析
  • 交渉チームの編成:役割分担と発言者の決定
  • 想定問答の準備:会社側の反論への対応策

準備の質が交渉の成果を左右するため、時間をかけてしっかりと取り組むことが重要です。

労働協約の締結とその重要性

労働協約とは、労使交渉によって合意に達した内容を文書化し、法的効力を持たせる制度です。

企業は一度締結した労働協約に従う義務があり、その内容には賃金や労働時間、福利厚生といった重要事項が含まれます。(労働組合法第16条)

通常、労働協約には1年から3年程度の有効期間が設けられ、改定の時期や方法もあらかじめ明示されます。

また、条項の解釈に違いが生じた場合の紛争解決手段も協約内で規定されるのが一般的です。労働協約は組合員の権利を守る強力な手段であり、締結に際しては一つ一つの内容を慎重に検討する必要があります。

出典:労働組合法|第三章労働協約

労使交渉を通じて組合の未来を築く

労使交渉は単なる条件闘争ではなく、組合員との絆を深め、組織の未来を築く貴重な機会です。

交渉プロセスを通じて組合員の声を丁寧に聞き、それを経営陣に伝えることで、組合の存在意義を明確に示すことができます。また、交渉の進捗や結果を透明性を持って共有することで、組合員の信頼と参加意識を高めることができるでしょう。

重要なのは、交渉結果だけでなく、そこに至るプロセスも含めて組合員に見える形で活動することです。

「組合が自分たちのために本気で取り組んでくれている」と実感してもらえる交渉を心がけることで、組合への関心と支持を継続的に得ることができます。

「TUNAG for UNION」は、労使交渉における準備から合意形成、結果の共有までを支援するデジタルプラットフォームです。

煩雑な情報共有や紙ベースのやり取りを脱し、スピーディーかつ双方向な組合運営を実現することで、組合員のエンゲージメント向上にもつながります。

労使交渉を「交渉すること」だけが目的の形式的な活動にするのではなく、組合員と未来を共有する機会として活用し、より強固で信頼される組合組織を築いていきましょう。

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この記事を書いた人

労働組合にて専従(中央執行書記長)を経て、現職。

<セミナー登壇歴>
◼︎日本経済新聞社
『労組をアップデートせよ 会社と並走し、 組合員に支持される労働組合の作り方』

<メディア掲載>
◼︎日本経済新聞社
『​​​​団体契約を活用して労組主導で社員の成長を支援 デジタルを駆使して新しい組合像を発信する』

◼︎NIKKEI Financial
『「知らない社員」減らす 労組のSNS術』

◼︎朝日新聞社
『歴史的賃上げ裏腹 悩む労組 アプリ活用』

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