労働組合に加入の強制力はある?労働協約の拘束力についても解説

労働組合の「数の力」は、労働者の権利を守り、より良い労働環境を実現するために不可欠な要素です。組合員数が多いに越したことはないわけですが、加入を強制することはできるのでしょうか。労働組合の強制力について詳しく解説します。

目次

労働組合は組合への加入を強制できる?

法的に認められる労働組合は、組合員の加入や脱退が法律で規制されています。まずは、労働組合の強制力の原則を見ていきましょう。

加入や脱退は労働者の自由

労働組合への加入は、原則として労働者の自由です。労働組合は任意団体として、労働者が自ら組織し運営するものであり、加入するかどうかは個人の選択に委ねられます。また、組合からの脱退も労働者の自由であり、組合側が強制的に脱退させることはできません。

なお、労働組合には自治が認められているため、組合規約で加入資格を限定することは可能です。例えば、正社員のみ加入できると規約で定めていれば、パートやアルバイトの加入を組合側で拒否できます。

ただし、この場合も加入するかどうかは労働者の自由です。あくまでも組合員になれる範囲を限定しているだけであり、対象者全員を強制的に加入させられるわけではありません。

また、会社側が労働組合への加入や組合からの脱退を強制することも不可能です。労働組合は会社から独立した組織であり、組合に対する会社の関与は不当労働行為として禁止されています。

加入や脱退の強制を規制する法律

労働組合は規約で加入資格を限定できると前項で解説しましたが、逆に脱退に関する規制を定めることも考えられます。「組合の承認がなければ脱退できない」などと規約に記載するケースです。

しかし、規約におけるこのような内容は、公序良俗に反するとして無効になるという判例があります。

また、会社側が労働組合の加入・脱退に関与できないことは、以下のように法律で規制されています。

  • 加入しないことや脱退することを雇用条件にする黄犬契約の禁止(労働組合法7条)
  • 労働組合からの脱退を促す行為の禁止(労働組合法7条)

なお、不当労働行為を受けた労働組合は労働委員会に救済申立てを行えますが、これに対して会社が報復的行為を行うのは違法とされています。(労働組合法7条)。

出典:最判平19.2.2民集第61巻1号86頁|裁判例結果詳細 | 裁判所 – Courts in Japan
出典:労働組合法 第七条 | e-Gov 法令検索

労働組合に加入できない人

労働組合法2条では、組合員になれない人を定めています。次に該当する人は「使用者の利益を代表する者(利益代表者)」とされ、原則として労働組合に加入できません。

  • 取締役・監査役・理事など会社の役員
  • 人事に直接関わる立場の人(人事部や労務部の部長クラス以上)

労働組合法第2条では労働組合に自主性を求めており、会社と対等な立場でなければならないとしています。利益代表者が組合にいると、労働組合が会社の言いなりになってしまう恐れがあるため、法律で保護できないと判断しているのです。

たとえ組合規約で「管理職も加入できる」と定めていても、法律による規制の方が優先されます。トラブルが発生した場合に利益代表者の存在が発覚すれば、組合が法律による保護を受けられなくなる可能性があるのです。

出典:労働組合法 第二条 | e-Gov 法令検索

組合加入の自由の例外

原則として労働組合への加入は労働者の自由ですが、ユニオンショップ制を導入している企業ではその限りではありません。組合加入の自由の例外について解説します。

ユニオンショップ制とは

労働組合が会社と協定を締結し、労働者に対して組合への加入を事実上強制する制度がユニオンショップ制です。労働組合の組織力強化や統制力維持を目的として、多くの企業で導入されています。

ユニオンショップ制を導入している企業では、雇用された労働者は一定期間内に労働組合に加入しなければなりません。労働者が労働組合に加入しない場合や、加入した組合から脱退した場合、会社は原則として労働者を解雇する必要があります。

ユニオンショップ制は、労働組合への加入・脱退の自由を原則保障する労働組合法において、例外的に認められている制度です。一定の条件が満たされた場合に有効になるとされています。

ユニオンショップ制の特徴

ユニオンショップ制の組合側のメリットは以下の通りです。

  • 組織拡大の促進
  • 財政基盤の強化
  • 会社との交渉力の向上
  • 組合活動の健全化
  • 労使関係の円滑化

一方、デメリットには次のようなものがあります。

  • 加入を望まない人が不満を持つ
  • 理解不足により組合員の活動意欲が下がる

ユニオンショップ制の今後

ユニオンショップ制は従来型の労働形態を前提とした制度です。近年は多くの企業で働き方が多様化しており、ユニオンショップ制の適用が難しいケースも増えているため、新しい働き方への対応が求められています。

また、ユニオンショップ制はあくまでも例外的に認められている制度であり、さまざまな法的課題を指摘されているのが実情です。今後も議論が続くことが予想されるため、最適な制度設計を探っていくことが必要となります。

労働協約の一般的拘束力について

労働組合の中枢で活動しているなら、労働協約の一般的拘束力についても理解を深めておくことが大切です。加入の強制力の有無と一緒に押さえておきましょう。

出典:労働協約の拡張適用について|厚生労働省

一般的拘束力の目的

労働協約の一般的拘束力とは、労働組合法第17条に基づいて、一定の条件下で組合員以外の労働者にも労働協約が適用される効力を指します。

組合員の努力により労働条件の改善が実現された場合、本来なら改善後の労働条件は組合員のみに適用されるべきでしょう。組合活動に携わっていない非組合員にも労働協約が適用されると、組合員が不満を抱く可能性があるためです。

一方で、非組合員に労働協約が適用されなければ、非組合員が不公平感を抱きかねません。法律では職場の公平性の確保を重視し、一定の条件下で労働協約が職場全体に及ぶように規定しているのです。

一般的拘束力の適用要件

労働協約の一般的拘束力は、1つの事業所において、常時使用される4分の3以上の同種の労働者が労働協約の適用を受けている場合に適用されます。

また、労働組合法18条では、地域単位での一般的拘束力も定められています。ある地域で同種の労働者の大部分が労働協約の適用を受けている場合、その地域の他の労働者にも協約が適用される可能性があるのです。

一般的拘束力の適用範囲は、労働協約の「規範的部分」と呼ばれる労働者の待遇に関する部分が対象です。賃金や労働時間が該当します。労働争議の手順など、組合と会社の関係を指す「債務的部分」は対象外です。

労働協約の効力

労働協約には、規範的効力と債務的効力の二つが存在します。

規範的効力は、労働協約に定められた労働条件の基準が就業規則や個々の労働契約より優先され、違反する部分は無効となる効力です。また債務的効力は、会社と労働組合が協約内容を順守し、履行する義務を負うという効力を指します。

規範的効力の対象となるのは、賃金や労働時間、休日の基準などです。一方の債務的効力では、ユニオンショップや組合事務所の貸与といったものが対象になります。

労働組合における強制力について理解しよう

労働組合への加入・脱退は原則として自由であり、組合や会社が強制することはできません。ただし、ユニオンショップ制では組合員でない者を解雇するという内容で、事実上加入を強制できます。

組織率が高いほど、労働組合の交渉力や要求実現の可能性は高まります。加入の強制力の有無について理解を深めた上で、組合員増につながる取り組みを進めていきましょう。

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この記事を書いた人

労働組合にて専従(中央執行書記長)を経て、現職。

<セミナー登壇歴>
◼︎日本経済新聞社
『労組をアップデートせよ 会社と並走し、 組合員に支持される労働組合の作り方』

<メディア掲載>
◼︎日本経済新聞社
『​​​​団体契約を活用して労組主導で社員の成長を支援 デジタルを駆使して新しい組合像を発信する』

◼︎NIKKEI Financial
『「知らない社員」減らす 労組のSNS術』

◼︎朝日新聞社
『歴史的賃上げ裏腹 悩む労組 アプリ活用』

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