雇用機会の現状と課題。労働組合が押さえておきたい知識や役割を解説

近年、雇用システムは従来のメンバーシップ型からジョブ型へと徐々に移行しつつあります。労働組合としては企業にジョブ型への移行を要請しつつ、育成システムやキャリア形成にも関与していきたいところです。雇用機会の現状と課題、労働組合の役割を解説します。
雇用システムの種類
雇用システムにはメンバーシップ雇用とジョブ型雇用の2種類があります。まずは、それぞれの意味を押さえておきましょう。
メンバーシップ型雇用
メンバーシップ型雇用とは、企業が新卒などを中心に採用し、職務内容や勤務地を限定せずに雇用する形態のことです。入社後に企業が従業員の適性や能力を見極め、配置転換や異動などを通して育成していきます。
メンバーシップ型雇用は終身雇用や年功序列と関連が深く、「日本型雇用」とも呼ばれます。企業のさまざまな部署を経験させることで、幅広い知識やスキルを身につけたゼネラリストを育成するのが特徴です。
柔軟な人材配置が可能で変化する状況に対応しやすいメリットがある反面、人材の専門性が高まりにくく年功序列による人件費も増大します。
ジョブ型雇用
ジョブ型雇用とは、企業が特定の職務(ジョブ)を明確に定義し、その職務に必要なスキルや経験を持つ人材を採用する雇用形態のことです。従来のメンバーシップ型雇用とは異なり、職務内容や責任範囲が明確に定められ、成果や能力に基づいて評価されます。
働き方改革やグローバル化が進む現代社会において、企業と従業員の双方にとって有効な雇用形態の一つとして、ジョブ型雇用が注目されています。
即戦力となる専門性の高い人材を確保しやすいことや、成果に基づいた評価で人材のモチベーションを高めやすいことが、ジョブ型雇用のメリットです。一方、柔軟な人材配置が難しいことや人材の流出リスクがあることなどのデメリットもあります。
雇用機会の均等の違い
メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用には、雇用機会の均等に違いがあります。どのような基準で比較すればよいのかを見ていきましょう。
メンバーシップ型雇用の基準
日本では男女雇用機会均等法により、企業が性別を理由に従業員を差別することを禁じています。正社員というメンバーシップを男女平等に与えることや、配置・昇進において男女で差別しないことが、メンバーシップ型雇用における主な基準です。
ただし、男女雇用機会均等法では具体的な職務基準が明確化されていません。そのため、採用における男女差別が実際に法的な問題として取り上げられるケースは多くありません。
出典:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律 | e-Gov 法令検索
ジョブ型雇用の基準
ジョブ型雇用における公正・公平の基準は、その仕事で成果を出すための能力があることです。スキルがない女性とスキルがある男性がいる場合、スキルがある男性の方を採用するのが平等な扱いになります。あくまでも能力を基準として比較した結果です。
ただし、明らかに優秀だと分かる女性が応募してきた場合に、「女性は育児などで仕事をしっかりとこなせない」という理由で採用しないのは差別になります。
ジョブ型雇用が注目されている背景
近年はメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用に移行する企業が増えています。ジョブ型雇用の注目度が高まっている理由としては、以下のようなものが挙げられます。
政府や経団連の提言
「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2025年改訂版」で、政府は企業ごとの事情に応じたジョブ型雇用の導入を進める必要があると提言しています。
また、経団連も「2022年版 経営労働政策特別委員会報告」の中で、メンバーシップ型雇用のメリットを生かしながらジョブ型雇用を取り入れていく必要性に触れています。
出典:新しい資本主義実現本部/新しい資本主義実現会議|内閣官房ホームページ
出典:経団連:2022年版 経営労働政策特別委員会報告 (2022-01-18)
終身雇用制度の崩壊
終身雇用制度とは、企業が従業員を定年まで雇用し続けることを前提とした日本の雇用慣行です。新卒で入社した従業員は、特別な理由がない限り、定年まで同じ会社で働き続けることができます。
バブル崩壊後の不況や長期的な経済低迷により、企業は長期にわたる雇用を維持することが難しくなりました。また、終身雇用制度では年齢や勤続年数に応じて給与が上がるため、人件費が企業にとって大きな負担となります。
このように、終身雇用制度は経済成長を前提とした制度であり、経済の低成長下では維持が困難になっています。終身雇用制度のデメリットを補うジョブ型雇用に、多くの企業がシフトし始めているのです。
働き方の多様化
テレワークの普及や働き方改革の推進により、従来の働き方にとらわれない多様な働き方が求められるようになりました。ジョブ型雇用は成果を重視するため、テレワークとの親和性が高いとされています。
ジョブ型雇用では、業務内容が明確に定義されており、成果に基づいて評価が行われます。これにより、テレワークでも業務の進捗状況や成果を把握しやすく、評価を公平に行えるためテレワークとの親和性が高いとされています。
専門スキルを持つ人材の不足
ITエンジニアやマーケターなど、専門性の高い人材の需要が高まる一方で、人材不足が深刻化しています。ジョブ型雇用は、企業が求めるスキルを持つ人材をピンポイントで採用できるため、この課題に対応する手段として注目されています。
プログラマー・システムエンジニア・Webデザイナーなど専門性の高い職種が多いIT企業や、新規事業を立ち上げる際に専門性の高い人材を必要とするベンチャー企業などは、ジョブ型雇用が向いているといえるでしょう。
大手企業におけるジョブ型雇用の導入
日立製作所・富士通・資生堂など、日本の大手企業がジョブ型雇用への転換を進めたことで、国内企業全体の関心が高まっています。
経団連が公表する資料によると、正社員の雇用区分としてジョブ型雇用を導入済もしくは導入予定・検討中と回答している企業の割合は25.2%です。経団連は東証一部上場企業を中心に構成されているため、大手企業におけるジョブ型雇用への移行が進んでいることが分かります。
出典:2020年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果 | 経団連
雇用機会について労働組合に求められる役割
雇用システムがジョブ型に移行しつつある現状において、労働組合にはどのような役割が求められるのでしょうか。雇用機会について労働組合に求められる役割を見ていきましょう。
ジョブ型雇用への転換の要請
これからの労働組合には、賃上げや労働条件の改善だけでなく、企業経営や人事戦略への関与も求められています。企業の持続的な成長が見込めなければ、賃上げや労働条件の改善も実現しにくいためです。
自社がいまだにメンバーシップ型雇用を続けているなら、労使協議などの話し合いの場で、ジョブ型雇用への転換を要請しましょう。自社に向いた雇用システムであるかどうか、労使間でしっかりと検討することが大切です。
若年層の育成体制強化の取り組み
日本のジョブ型雇用は、養成期にあたる期間はメンバーシップ型、成果を求められる管理職にはジョブ型という方向に進んでいます。このような日本独自の雇用システムでは、養成期においてどの程度スキルや経験が身についたかが重要です。
育成期間の成長度合いは長期にわたるキャリアと所得のあり方に影響するため、労働組合としても若年層の育成体制強化の取り組みに関心を払いましょう。
組合としても雇用機会の均等への取り組みを
近年は雇用システムがジョブ型に転換しつつあります。終身雇用制度の崩壊や働き方の多様化、専門スキルを持つ人材の不足などが、ジョブ型雇用が注目されている理由です。
労働組合としても雇用システムに関する教養を持ち、企業経営や人事戦略について中長期的な視点で企業に助言できる存在になることが重要です。