ベアとは?定期昇給との違いや春闘の結果など、労働組合に必要な基本

ベアはベースアップの略であり、従業員全員の基本給を一律で引き上げることを意味します。春闘では大手企業におけるベアの高水準での妥結が相次いでいますが、中小企業にまで波及していないのが実情です。労働組合が知っておきたいベアの基本を解説します。

目次

ベアとは?

ベアという言葉を聞いたことはあっても、具体的な意味は分からないという人もいるのではないでしょうか。定期昇給との違いや計算方法など、まずはベアの基礎知識を紹介します。

ベースアップの略語

ベアとは、企業が従業員全員の基本給を一律で引き上げることを意味します。ベースアップの略語であり、賃上げの一種です。

物価上昇時やインフレ時には国民の生活が苦しくなるため、労働者の生活を守るためにベアが実施されます。毎年春に行われる春闘において、労働組合が企業にベアを要求して実現に至るのが一般的です。

ただし、全従業員の給与を底上げするベアは人件費の上昇につながるため、企業にとっては痛みを伴う改革です。労働者の生活が苦しいからといって、全ての企業がベアを実施できるとは限りません。

ベアと定期昇給の違い

定期昇給とは、年齢・勤続年数・実績に応じて定期的に給与が上がることです。昇給のタイミングや評価基準は企業ごとに異なるほか、どの企業でも必ず定期昇給があるとは限りません。

ベアが賃金表の書き換えを指すとするなら、定期昇給は賃金表上の移動です。年齢や勤続年数が増えるにつれて賃金も上がっていく曲線を「賃金カーブ」といい、賃金制度の整備が進んでいる企業では賃金カーブの維持がほぼ制度化されています。

定期昇給とベアの大きな違いは、企業の金銭的な負担です。給与が高くなると退職も近くなるため、退職者数と入社人数が毎年一定の範囲内に収まる場合は、定期昇給の制度を設けていても企業の人件費負担は増えにくいです。

ベアの種類

ベアは大きく次の2種類に分けられます。

  • 基本給に一定の金額を上乗せするタイプ
  • 基本給を同率の割合で増やすタイプ

例えばベアで月給20万円が5,000円増える場合、一定の金額を上乗せするタイプなら昇給額は5,000円、同率の割合で増やすタイプなら昇給率は2.5%です。

このベアを月給40万円に当てはめてみると、一定の金額を上乗せするタイプでは昇給額が同じ5,000円ですが、同率の割合で増やすタイプなら40万円×2.5%=1万円増えることになります。

一定の金額を上乗せするタイプは社内の賃金格差が生じにくく、同率の割合で増やすタイプは給与が高い人からの不満が出にくいことが特徴です。

春闘におけるベアの現状

2024年に続き、2025年の春闘も高水準の回答が相次いでいます。2025年の春闘の妥結結果と中小企業への影響を見ていきましょう。

2025年の春闘の主な妥結結果

2025年の春闘では、多くの大手企業で満額回答が実現し、それ以外の大手企業でも高水準の回答が目立ちました。連合が公表する第1回集計結果によると、ベアと定期昇給を合わせた平均賃上げ率は5.46%で、2年連続で5%を超えています。

ただし、春闘の初期で出される結果は、大手企業の回答が大半です。集中回答日における大手企業の結果を踏まえて、中小企業の交渉が本格化するため、その年の春闘の最終的な結果が分かるのは例年夏ごろになります。

出典:2025 春闘 回答日 賃上げは?トヨタ NTT 日立 NEC 日産 三菱電機 自動車・電機など各社の状況まとめ | NHK | 春闘

出典:前年を上回る回答引き出し!中小組合も5%超え! 有期・短時間・契約等労働者(時給)の賃上げ率は6%超え! ~2025 春季生活闘争 第1回回答集計結果について~

中小企業への波及は限定的

厚生労働省の「令和6年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」によると、2024年に一般職でベアを実施した企業の割合は52.1%です。このうち、1,000~4,999人の企業の割合は76.8%、規模が5,000人以上の企業の割合は78.5%となっています。

ベアは規模が大きい企業で積極的に実施されており、中小企業ではまだまだ実施率が低いのが実情です。春闘の結果だけを見ると、労働者全体の賃金が上がっているような印象を受けますが、中小企業への波及は限定的なものになっています。

出典:第4表 企業規模・産業、管理職・一般職、定期昇給とベア等の実施状況別企業割合

ベアを実現できない企業が多い理由

近年は多くの大手企業で高水準の賃上げを実現していますが、中小企業ではベアを実現できない企業が多いのが実情です。主な理由を2点解説します。

価格転嫁が不十分

価格転嫁とは、コストの上昇分を製品やサービスの価格に反映させることです。賃上げが行われると企業の人件費は増加しますが、そのコストを価格に転嫁することで賃上げを継続的に行えます。

しかし、中小企業では価格転嫁が不十分であり、ベアを実現できない大きな理由の一つです。原材料費・電気代・燃料費などの高騰以外に、取引先からの発注が減らされることを恐れて価格転嫁に踏み切れないケースもあります。

労働組合の組織率が低い

厚生労働省の「令和6年労働組合基礎調査の概況」によると、労働組合の組織率は年々低下し続けており、2025年の推定組織率は16.1%と過去最低を更新しています。現在は8割超の労働者が労働組合に加入していないのです。

組織率は組合の交渉力に直結するため、組合員数が少なければどうしても要求を通しにくくなります。非組合員にも組合のメリットを理解してもらい、組織化に結び付けていくことが、労働組合が目指すべきものの一つだといえるでしょう。

出典:1 労働組合及び労働組合員の状況

ベアの意味と現状を理解しよう

ベアの実現は労働組合における重要なテーマです。近年の物価高に対抗するためには、ベアを含む賃上げの要求を通していく必要があります。

ベアや定期昇給、近年の春闘の傾向などについて理解を深め、今後の組合活動に生かしていきましょう。

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この記事を書いた人

労働組合にて専従(中央執行書記長)を経て、現職。

<セミナー登壇歴>
◼︎日本経済新聞社
『労組をアップデートせよ 会社と並走し、 組合員に支持される労働組合の作り方』
『労働組合の未来戦略 労組の価値向上につながる 教育施策の打ち方』

<メディア掲載>
◼︎日本経済新聞社
『​​​​団体契約を活用して労組主導で社員の成長を支援 デジタルを駆使して新しい組合像を発信する』

◼︎NIKKEI Financial
『「知らない社員」減らす 労組のSNS術』

◼︎朝日新聞社
『歴史的賃上げ裏腹 悩む労組 アプリ活用』

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