産業別組合に求められる役割とは?日本の労働組合の現状から紐解く

日本の労働組合は企業別組合がメインであり、そのことがさまざまな問題を引き起こしています。産業別組合を活性化すれば、問題解決につなげることが可能です。日本の労働組合が抱える課題と限界、産業別組合に求められる役割について解説します。
日本の労働組合の特徴
産業別組合が主流となっている欧州とは異なり、企業別組合を中心とする日本の労働組合は独自に発展してきました。まずは、日本の労働組合の特徴を解説します。
企業別組合が中心
欧州における労働組合は、産業レベルで結成されるのが一般的です。産業別組合が産業レベルで労働協約を締結し、企業レベルでは民主的に選出された従業員代表が企業と協議をすることで諸問題を処理しています。
一方、日本の労働組合は企業別組合がメインです。争議権を背景に労働条件について企業と交渉し、企業内の諸問題も企業別組合が企業と協議して処理にあたります。
日本の労働組合の歴史においては、労働者が自主的に企業別組合を生み出してきた背景があります。産業別の賃金交渉はほとんどなくなり、日本では賃金水準を産業別組合で決定する仕組みが根づきにくいのが実情です。
労使協調路線が基本
労働組合の本質は、個人では立場が弱い労働者が集団となって企業と対等な立場になり、賃金や労働条件について交渉することです。労使関係は対立的な構造になります。
しかし、日本の企業別組合と企業の関係は、労使協調路線が基本です。これには、次のような理由が考えられます。
- 年功型賃金制度により、その企業でしか発揮できないスキルが身につき、転職しにくくなる
- 自分の価値を相対的な地位や昇給度合いのみで測るため、従業員間での競争意識が優先される
- 管理職や経営者に組合経験者が多く、労使が相互に企業成長を目指す協力関係が生まれやすい
近年は労働争議の件数も減っており、団体交渉すら行わずに労使協議で問題を処理するケースが増えています。
日本の労働組合が抱える課題と限界
独自路線を歩んできた日本の労働組合については、さまざまな問題が指摘されています。日本の労働組合が抱える課題と限界を見ていきましょう。
労働協約の適用率が低い
労働組合の組織率が低下傾向にあるのは、欧州も日本も同じです。しかし、欧州では産業別組合が労働協約を締結するため、その産業で働く多くの労働者に労働協約の内容が適用されます。労働組合に加入しているかどうかは、基本的には関係ありません。
一方、日本では企業別組合が個別に労働協約を締結することから、労働協約の内容が適用されるのは一般的に組合員のみです。組合に加入していない労働者に適用されるケースもありますが、労働協約の拡張適用を実現するためには諸条件を満たす必要があります。
労働協約は非常に強い効力を持ち、就業規則や個別の労働契約よりも優先されます。多くの労働者を守るためには、労働協約の適用率を上げることが不可欠です。
以前に比べ存在意義が縮小している
労使協調路線が基本となっている近年は、団体交渉ではなく労使協議が行われるケースが増えています。団体交渉では要求に対して何らかの結論を出す必要がありますが、労使協議では必ずしも結論を出す必要はありません。
固定的な構造として労使協調が根づいてしまったことで、企業別組合は必要なタイミングでも企業に対して強い要求ができなくなっています。「第二人事部」や「御用組合」などと揶揄されることもあり、以前に比べて労働組合の存在意義は縮小しているといえます。
未来の労働組合に求められること
労働組合の存在価値を高めるためには、どのようなことを意識すればよいのでしょうか。未来の労働組合に求められることを理解し、今後の組合活動に生かしていきましょう。
産業別組合の活性化
日本で企業別組合を中心に労働組合が発展してきた背景の一つに、年功序列制や終身雇用制といった日本独自の雇用慣行が挙げられます。年功序列・終身雇用・企業別組合は、「日本型経営の三種の神器」と呼ばれることもあります。
しかし、近年は転職が当たり前になりつつあり、労働市場が活性化しています。年功序列や終身雇用も崩壊に近いといわれ、ジョブ型雇用を採用する企業も増えています。
このような状況で価値を発揮しやすいのが産業別組合です。雇用の流動化を追い風として産業別組合を活性化していけば、労働条件の改善や賃金の引き上げも推進しやすくなるでしょう。
労使関係の見直し
これからの時代は、企業別組合も今までの労使関係を見直す必要があります。特に意識したいのが、企業経営に対する監視役・批評役としての役割を担うことです。
労働条件の改善や賃金の引き上げを訴えても、企業にそれを受け入れるだけの体力がなければ、労働者の生活はいつまでも良くなりません。今後は労働組合も、企業経営や人事戦略に関する知見を深め、中長期的な視点で助言できる存在となることが重要です。
産業別組合の拡大が今後の労働組合の鍵
産業別組合が価値を発揮してきた欧州と異なり、日本では企業別組合が発展してきた歴史があります。ただし、企業別組合を中心とする状況では、さまざまな問題が生じているのが実情です。
日本で労働組合が存在意義を示すためには、産業別組合の拡大が今後の鍵といえるでしょう。また、労使関係を見直して真の意味での労使協調を目指すことも大切です。