労働組合が次世代に伝えたい労働運動の変遷と意義。若手にはどうアプローチする?

日本の労働運動は、労働組合とともに発展・変化してきました。イベントや新規加入者への説明など節目の場では、現在の労働運動を支える組合の意義をしっかりと伝えましょう。日本における歴史とともに、海外の動向や若手への伝え方も解説します。

目次

日本の労働運動の歴史と組合の変遷

日本の労働運動は、現在の労働組合を主体とした団体交渉のような形に至るまでさまざまな変遷を経験してきました。現在の労働関連法令の在り方にもつながる、労働運動と労働組合の歩みを見ていきましょう。

参考:日本の労働組合の成立ち(出典「日本労働組合物語」より)|厚生労働省

労働組合ができるまでの歩み

日本では明治以前から労働運動(労働争議)があったものの、当時労働組合は結成されていませんでした。組合を結成する運動は1880年代に始まり、いくつかの団体の結成・解散を経て、1897年に労働組合期成会が結成されます。

その後、海外の労働組合や労働運動の発展を参考に結成された「鉄工組合」「日本鉄道矯正会」「活版工組合」という産業ごとの労働組合を皮切りに、労働運動は活発になり、産業や職業別の組織が次々に作られました。

しかし、1900年に施行された治安警察法により、労働運動は壊滅してしまいます。

労資協調から階級闘争へ、そして国家との対立

1912年(大正元年)には、「友愛会」が創設されて労働組合運動が再建されます。その運動は労使が労資協調主義であり、第1次世界大戦で急増した賃金労働者に支持されていました。

友愛会は次第に労資協調主義から急進主義に向かいます。1919年には「大日本労働総同盟友愛会」と名を新たにし、今日の労働組合の基礎となりました。翌1920年には日本初の「メーデー」が開かれ労働運動が活発化する一方、政府は治安維持法を施行して弾圧し、労働組合と政府は対立する形となります。

やがて労働組合の左派は急進主義へ・右派は労資協調主義へと二極化します。日本労働組合評議会も分裂してしまいます。昭和に入って賃金労働者が増えても、左派と右派の分裂は水面下で続いていました。

のちの満州事変に始まる軍国主義の台頭をきっかけに、労働組合は自主的な組織として成立できなくなり、1940年には全ての労働組合が解散させられることになります。

戦後の労働法整備と企業別組合の定着

第2次世界大戦後は、連合国軍の占領下に置かれて日本の情勢が大きく変化した時期です。終戦した1945年に労働組合法が制定され、労働者に団結が保障されるようになりました。

終戦翌年から始まった労働関係調整法・労働基準法など労働者を守る法律の制定にも後押しされ、労働者は生活を守るための闘争に立ち上がります。労働組合の結成は再び勢いを増し、1946年8月末には労働組合数1万3,622、加入者数393万6,815人に上りました。

戦後の労働組合は、終身雇用・年功序列型賃金を特徴とする縦の労使関係に基づき、企業別労働組合が主流となります。日本固有の労使関係に起因する企業へ帰属意識が労働組合の排斥材料となった時期もありましたが、戦後に労働運動が自由化したことで、縦の労使関係の上に労働組合が作られる形となり現在に至ります。

日本の労働組合が参考にしたいアメリカの組合の動向

「令和6年労働組合基礎調査の概況(厚生労働省)」によると、日本の労働組合の推定組織率は16.1%で過去最低となっています。一方、アメリカでは労働組合運動が活発化している状態です。日本の組合の参考にもなるアメリカの動向を、事例とともに紹介します。

アメリカにおける労働組合活動の民主化

アメリカの労働組合運動が活発化している背景には、「フェアではない」という感覚と労働組合活動の民主化があります。

民主化によって成果が上がった理由は、組合員の意欲を引き出せたことです。具体的には以下のような取り組みによって、組合員を発起させました。

  • リーダー決定の際、組合員による直接投票を実施する
  • 組合の代表者が会社と締結した協約の批准に対して、組合員が投票できるようにする
  • 組合員が交渉団に参加できるようにする

政治的な後押しもあったと考えられますが、民主化に向けた取り組みが功を奏し、労働運動が活発化したことは確かです。

若手が主導した労働運動の事例

アメリカには、若手世代が主導した労働運動も見られます。有名なのが、Amazon労働組合(Amazon Labor Union)の結成です。

2022年、ニューヨークの倉庫で、青年が主導してAmazon Labor Unionの結成に成功しました。これは、組合の結成が難しいと思われていたAmazonでの労組承認という快挙です。

発起人のクリスチャン・スモールズ氏は、感染症対策を巡る抗議解雇をきっかけに活動を本格化したといいます。このような若手主導の労働運動は、日本の若者にも希望や意欲を与えるきっかけになり得るでしょう。

労働運動や組合の意義を若手に伝えるには

役員や組合員全体の高齢化により、代替わりに向けた準備をしている組合は多いでしょう。次世代に労働組合を任せるには、労働運動や組合の意義を若手世代に伝えなければなりません。どのような伝え方をすれば、若手に響くのでしょうか。

組合や労働運動の歴史を現在の制度を結び付ける

若手世代は、説明会の場で歴史だけ伝えられても、ピンと来ない可能性があります。歴史と現在の制度を絡めて説明することで労働運動や組合の意義を伝えやすくなります。

例えば次のような切り口が考えられます。

  • 戦後にできた労働組合法と憲法があって初めて、労働組合が団体交渉などの労働運動ができる
  • 労働者を守る労働基準法が制定されなければ、有給休暇もなく無制限に働かされていた可能性がある

現在自分たちが密接に関わっている事柄に、労働運動の歴史が関わっていることが分かりやすいでしょう。

参考:労働組合法 第1条第1項・第7条第2号|e-Gov法令検索

参考:日本国憲法 第28条|e-Gov法令検索

参考:労働基準法 第4章|e-Gov法令検索

海外の事例も伝えて自分ごとと認識してもらう

紹介したように、海外には若い世代が主導して労働組合自体を結成したという事例もあります。年代の近い労働者の組合運動は、若手にとって労働運動に希望を見いだす大きな要素です。

日本の事例でなくても、「役員が何かやってくれるだろう」という無関心の状態から、自分も労働組合に加入して労働運動に関与できるという認識を持つきっかけになるでしょう。

集会やデモ以外の労働運動の手段を伝える

2025年の連合の調査によると、企業別労働組合に加入していると答えた人は若手世代(20〜30代)が多いと分かりました。

また、2022年に連合が全国の15~29歳の男女1,500人を対象としたインターネット調査を実施した結果、Z世代の約9割が社会課題に関心があると回答しています。アプローチさえ適切なら、若い世代が労働運動に参加する可能性が十分にあるということです。

同インターネット調査によれば、これまで参加した社会活動の形態は1位が「知識を深めるためのセミナー」、2位は「SNSでの個人の発信」でした。「顔や名前を出さない」ことを重視する傾向が分かります。

労働組合でも集会やデモのような従来の方法以外にも手段を用意し、若手世代に抵抗の少ない方法があることを伝えましょう。

参考:連合|世論調査「連合および労働組合のイメージ調査2025」PDF P.9、「Z世代が考える社会を良くするための社会運動調査2022」PDF P.1

労働運動の歴史と意義伝えて組合を次世代へ

日本の労働運動や労働組合は、さまざまな歴史的背景の影響を受けながら現在の形に至りました。弾圧を受けながらも労働運動を諦めず、縦型の組織を前提とした企業別労働組合を中心に発展してきた日本の組合活動は、特殊な強さを持っているといえます。

ただ、現在日本の労働組合運動は衰えを見せています。海外の事例も参考に若手世代へ労働運動や組合の意義を伝え、これからも労働者を守る組織として存続していけるように動きましょう。

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この記事を書いた人

労働組合にて専従(中央執行書記長)を経て、現職。

<セミナー登壇歴>
◼︎日本経済新聞社
『労組をアップデートせよ 会社と並走し、 組合員に支持される労働組合の作り方』
『労働組合の未来戦略 労組の価値向上につながる 教育施策の打ち方』

<メディア掲載>
◼︎日本経済新聞社
『​​​​団体契約を活用して労組主導で社員の成長を支援 デジタルを駆使して新しい組合像を発信する』

◼︎NIKKEI Financial
『「知らない社員」減らす 労組のSNS術』

◼︎朝日新聞社
『歴史的賃上げ裏腹 悩む労組 アプリ活用』

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