セクハラについて労働組合が押さえておきたい知識と相談対応の体制

組合員の声からセクハラの疑いが上がったとき、労働組合として動くべきか迷うケースもあるのではないでしょうか。職場でのセクハラは、労働組合が積極的に対応すべき問題です。その理由とともに、組合が知っておきたい基礎知識や初動対応などのノウハウを解説します。

目次

労働組合がセクハラ問題に対応すべき理由

セクシュアルハラスメント(以下「セクハラ」)の対応は、使用者側の役目だと思うかもしれません。しかしセクハラは、労働組合が改善を要求すべき重要な課題です。なぜ労働組合がセクハラ問題に対応すべきなのか、具体的に解説します。

セクハラは当事者だけでなく職場全体に影響を及ぼす

セクハラ被害者の心理的安全が損なわれると、業務効率や人間関係にも悪影響が及びます。もしも放置された場合、離職や士気低下など組織全体に波及しかねません。そうなると生産性が下がって業績が落ち、給与に影響する恐れもあります。

また、労働契約法第5条により、事業主(使用者)には労働者の安全に配慮する義務が課されています。セクハラの放置は違法と見なされます。使用者が対応しないなら、労働組合が法的な根拠を提示して動く必要が出てくるでしょう。

参考:労働契約法 第5条|e-Gov法令検索

職場の相談窓口には相談しにくいこともある

ハラスメントに関する相談窓口を設けている職場でも、被害者が相談するのをためらってしまう場合があります。社内相談窓口は、利害関係や上下関係の影響で相談しづらいという人は少なくありません。

結局相談できなかった社内窓口のほかに頼れる場所がないと、「誰にも言えず我慢している」という事実が明るみに出ません。結果として対応策がとられず、セクハラ被害がほかの労働者にも及ぶ事態を招く恐れがあります。

労働組合は、職場内の窓口と違って使用者から独立した組織です(労働組合法第2条第1号、第2号より)。セクハラの被害者にとって、相対的に中立で頼りやすい立場にあります。

参考:労働組合法 第2条第1号,第2号|e-Gov法令検索

労働組合は信頼できる第三者としての役割を果たせる

労働組合は、使用者から独立した立場で労働者の環境を守る役割を持つ団体です。相談の受け皿としてだけでなく、改善要求の主体にもなれるという強みを持っています。

労働組合の要求としては賃上げや解雇・雇い止めなどが目立ちますが、セクハラをはじめとした人間関係についての要求も可能です。労働組合には、セクハラを含む職場のトラブルを抑止する役割も期待されています。

参考:労働組合 |厚生労働省

労働組合がセクハラ問題に向き合うために必要な知識

セクハラは被害者の主観によるところも大きく、定義や判断基準に難しさがあります。ただ、セクハラに対しては事業主(使用者)に法的な義務も課されており、労働組合は法的根拠を持って改善の要求が可能です。

相談から交渉までの対応で、労働組合が知っておきたいセクハラの知識を整理していきましょう。

セクハラの定義や分類

厚生労働省のハラスメント対策の総合情報サイト「あかるい職場応援団」によると、職場におけるセクハラは「職場で労働者の望まない性的な言動によって、その労働者が不利益を与えたり就業環境を害したりすること」です。

性的な言動とは、具体的には以下のようなものが挙げられます。

  • 性的な事柄を尋ねる
  • 性的な事情をうわさする
  • 自分(加害者)の性的体験談を語る
  • 性的な関係に誘ったり性的関係を強要したりする
  • 必要もないのに体を触る
  • 同意なくわいせつ行為に及ぶ
  • 不同意性交に及ぶ
  • わいせつな画像を掲示、配布する

また、セクハラには「対価型」「環境型」という二つの分類があるともされています。「対価型」は被害者が配置転換や解雇などの不利益を被るタイプ、「環境型」は被害者の就労意欲低下など就業環境に悪影響を及ぼすタイプです。

参考:ハラスメントの定義|ハラスメント基本情報|あかるい職場応援団 -職場のハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト-

法律が定めるセクハラに対する事業主の義務

男女雇用機会均等法では、セクハラに対して事業者に「対応方針の明確化」「相談体制の整備」「再発防止措置」などの対応が義務付けられています。

国が性的マイノリティに関する理解増進に取り組んでおり、現在は性的指向・性自認に関するハラスメントも対応対象に含まれていることも押さえておきましょう。

参考:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)第11条第1項・第11条の2|e-Gov法令検索

参考:性的マイノリティに関する理解増進に向けて~厚生労働省の取組~ |厚生労働省

労働組合が理解すべきセクハラの判断基準

組合員からセクハラがあったという声が上がったときは、厚生労働省の判断基準を参考に冷静に判断する必要があります。被害者の主観的な不快感だけでなく、就業環境への影響や加害行為の継続性なども考慮すべきです。ただ、回数のみを判断材料とはできません。

厚生労働省の資料を見ても判断に迷う場合は、判例、ほかの労組の事例・見解を参考にするとよいでしょう。判断基準が明確になったら、組合内で共有することで相談対応の一貫性を担保できます。

参考:職場におけるハラスメント対策マニュアル P.11〜12|厚生労働省

労働組合として準備したいセクハラ相談の初期対応体制

セクハラの相談には、初期対応が重要とされています。労働組合として、どのような準備をしておけば適切な初期対応ができるのでしょうか。

初期対応のフローを整備して属人対応を防ぐ

組合としてまずできることは、初期対応フローの整備です。相談受付からヒアリング、事実確認、対外対応までの流れを文書化しましょう。

次にセクハラ相談に対応する役員を明確にした上で、誰かが不在でも対応できるように複数人での対応を基本とします。相談を受ける際は、感情論ではなく事実に基づく対応を徹底することが重要です。

訴えを否定せず、いつ・誰に・何をされたのか冷静にヒアリングするというルールを設けると、その後の判断や対応に移りやすくなります。

必要に応じて連携できるよう外部の相談先を整理しておく

セクハラは労働問題の中でも繊細な問題で、知識がないと適切な対応が難しい場合が少なくありません。組合内で対応しきれない場合は、外部に頼った方が被害を訴えている本人の心理的・就業環境上の安全につながるでしょう。

セクハラについて頼れる外部機関には、都道府県労働局や弁護士会、NPOなどがあります。外部機関の情報を事前に把握・整理しておくことで、速やかな外部連携が可能です。

労働組合がセクハラ問題について交渉するポイント

組合で相談を受けた結果、セクハラの事実があった場合は使用者への改善要求が必要です。交渉を有利に進めるには、何を意識すればよいのでしょうか。

客観的な記録を基にセクハラの事実を主張する

「ハラスメントと感じたのだからハラスメント」というような感情的な主張では、逆に反論・説得されて要求をのんでもらえない可能性が出てきます。実際、感情論で要求した結果、慰謝料の請求を事実上撤回させられた例もあります。

セクハラ被害者本人の訴えのほか、第三者の証言や事実の記録などの客観的な根拠を持って交渉に臨むことが、説得力のある団体交渉には重要です。目撃者や関係者の証言がある場合は、丁寧に聞き取り記録して交渉に臨みましょう。

法律の定めも根拠として提示する

セクハラに対する使用者の法的義務は、改善措置をとってもらうのに有効な根拠です。法的裏付けを持つことで、感情的な対立を回避しつつ合理的な要求が可能になります。

制度の不備や対応の遅れを冷静に指摘すると、具体的な改善を要求しやすくなるでしょう。

組合としてセクハラ問題に対応できる知識の蓄積を

セクハラ問題は、賃上げや労働時間に関するテーマと比べて見過ごされやすいかもしれません。しかし、セクハラは職場環境全体に関わる深刻な課題です。

労働組合には、相談者を守れる対応体制の構築が求められます。セクハラに対する法的知識と実務対応のノウハウを蓄積し、信頼される組合を目指しましょう。

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この記事を書いた人

労働組合にて専従(中央執行書記長)を経て、現職。

<セミナー登壇歴>
◼︎日本経済新聞社
『労組をアップデートせよ 会社と並走し、 組合員に支持される労働組合の作り方』
『労働組合の未来戦略 労組の価値向上につながる 教育施策の打ち方』

<メディア掲載>
◼︎日本経済新聞社
『​​​​団体契約を活用して労組主導で社員の成長を支援 デジタルを駆使して新しい組合像を発信する』

◼︎NIKKEI Financial
『「知らない社員」減らす 労組のSNS術』

◼︎朝日新聞社
『歴史的賃上げ裏腹 悩む労組 アプリ活用』

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