ベースアップとは?労働組合として押さえておきたい基礎知識を解説

ベースアップを正しく理解すれば、意義ある賃上げの実現につながります。定期昇給・賃上げとの違いや計算方法を知り、組合活動に役立てましょう。知っておきたいベースアップの基本を解説します。
ベースアップとは
ベースアップは省略して「ベア」と呼ばれることも多い言葉です。どのようなことを指すのか、まずはベースアップの意味や定期昇給・賃上げとの違いを見ていきましょう。
賃金水準が引き上げられること
ベースアップとは、従業員全員の賃金が引き上げられることです。「ベース」が「アップ」する、つまり基本給が一律で底上げされることを意味します。
好景気の時代は、多くの企業が毎年2~5%のベースアップを行っていました。物価の上昇に合わせて賃金を引き上げることで、労働者の生活が守られていたのです。
しかし、2000年代に入ると景気低迷やデフレを理由に、大半の企業でベースアップの要求が拒否されるようになります。2014年ごろから大企業を中心に再びベースアップを行う企業が増えてきたものの、中小企業の資金水準は現在も低いままです。
定期昇給や賃上げとの違い
勤続年数や成果に応じて定期的に賃金が上がる仕組みが定期昇給です。求人に記載されている「昇給年1回」は、基本的に定期昇給のことを指しています。
ベースアップと定期昇給は、どちらも賃上げの一種ですが、目的が異なります。ベースアップの主な目的が生活水準の向上や物価上昇に対する支援であるのに対し、定期昇給の主な目的はキャリア形成や長期雇用を促進することです。
定期昇給が制度化されていない企業では、定期昇給に相当する部分を交渉で確保しなければ個々の賃金水準が低下することになります。
ベースアップの現状
公的な資料のデータを参考に、2024年におけるベースアップの現状を紹介します。なぜ企業がベースアップを行うのかも理解しておきましょう。
ベースアップを行う企業は増加傾向にある
2024年における「ベースアップを行った・行う」企業の割合は、一般職で52.1%、管理職が47.0%です。「ベースアップを行った・行う」企業は2023年から急激に増えており、2023年と2024年は2004年以降で最も高い水準となっています。
日本では過去20年ほどの間に、ベースアップを行う企業の割合が10~30%程度を推移していました。しかし、2024年には約半数の企業がベースアップを行っているのです。
企業規模が大きくなるほど「ベースアップを行った・行う」割合が多くなっている点も特徴です。一般職で「ベースアップを行った・行う」規模が1,000~4,999人の企業の割合は76.8%、規模が5,000人以上の企業の割合は78.5%となっています。
このことから、ベースアップは主に大企業で積極的に実施されているものであり、中小企業ではまだまだ実施率が低いことが分かります。
企業がベースアップを行う理由
ベースアップを実施すれば従業員の賃金が底上げされるため、物価上昇から従業員の生活を守れます。安定した働き方ができるようになれば、従業員のモチベーションがアップし、生産性向上も期待できるでしょう。
人材を確保しやすくなることもポイントです。ベースアップの実施は求職者に対する大きなアピールポイントになるため、企業の採用活動においてプラスに働きます。
近年はどの業界でも人材不足が深刻化しており、人員確保のためにベースアップを行う企業も増えています。
ベースアップの種類と計算方法
ベースアップの種類は大きく二つに分けられます。それぞれの特徴と計算方法を見ていきましょう。
一定金額の上乗せ
基本給に一定の金額を上乗せするベースアップは、従業員の給与を「新しい給与=現在の給与+一定の金額」という計算になります。
例えば、一律5,000円のベースアップを実施した場合、次のように計算することが可能です。
- 月給20万円の場合:20万円+5,000円=20万5,000円
- 月給40万円の場合:40万円+5,000円=40万5,000円
社内での賃金格差が広がりにくいことが、一定金額を上乗せするベースアップの特徴です。ただし、賃金が高い人には昇給が少ないと思われやすくなるでしょう。
同率割合での昇給
基本給を同率の割合で増やすベースアップは、「新しい給与=現在の給与+(現在の給与×一定の割合)」という計算になります。一律2.5%のベースアップを実施した場合の計算式を、前項と比較してみましょう。
- 月給20万円の場合:20万円+(20万円×2.5%)=20万5,000円
- 月給40万円の場合:40万円+(40万円×2.5%)=41万円
現在の賃金が高いほど昇給額も高くなるため、賃金が高い人からの不満は出にくくなりますが、賃金の高い人と低い人の格差は大きくなります。
ベースアップに関連する法令やルール
ベースアップとの関連性が高い法令やルールには、賃上げ促進税制や同一労働同一賃金があります。それぞれの内容を詳しく解説します。
賃上げ促進税制
賃上げ促進税制は、従業員の賃金引き上げを促進し、労働者の所得向上と経済の活性化を図るために政府が創設した制度です。賃上げを実施した企業が一定の条件を満たした場合、増加額の一部を法人税から税額控除できます。
2024年4月1日から2027年3月31日までに開始する事業年度では、一定条件を満たした中小企業において、増加額の最大45%の税額控除を受けることが可能です。
同一労働同一賃金
同一労働同一賃金とは、雇用形態が異なっていても仕事内容が同じなら、不合理な待遇差や差別的取り扱いがあってはならないという考え方です。正社員と非正規雇用労働者の格差是正を目指しています。
同一労働同一賃金への対応が規定されている法律は、パートタイム・有期雇用労働法や労働者派遣法です。現在は企業規模にかかわらず、全ての企業に同一労働同一賃金の実現に向けた労働環境の整備が義務付けられています。
労働組合とベースアップ
労働組合は春闘において主に賃上げ要求を行うため、春闘に参加する場合はベースアップについても理解を深めておく必要があるでしょう。春闘の概要や近年の成果を紹介します。
ベースアップに大きな影響を与える「春闘」
春闘とは、労働組合が企業に対して主に賃上げを要求する年次的な交渉です。毎年春に実施され、例年3月の集中回答日に大手企業の妥結結果が分かります。大手企業の結果を踏まえ、中小企業の交渉が本格化していくという流れです。
春闘で妥結した賃上げ率は、ベースアップと定期昇給の両方を含んだ数字として公表されています。春闘の賃上げを分析する際は、ベースアップと定期昇給に分けて見ることが重要です。
近年は高水準の回答が続いている
近年は春闘における大手企業の満額回答が相次いでいます。トヨタ・マツダ・NEC・日立製作所・三菱重工業などが満額回答となっており、スズキと三菱ケミカルに至っては要求を上回る金額でした。
連合が公表している2025年春闘の第1回集計結果によると、ベースアップと定期昇給を合わせた平均賃上げ率は5.46%で、2年連続で5%を超えています。
一方、中小企業の賃上げ率は大手企業の水準に至っていないのが実情です。日本の労働者の約7割は中小企業で働いており、今後は大手企業と中小企業の賃金格差の解消が大きな課題となっていくでしょう。
出典:2025 春闘 回答日 賃上げは?トヨタ NTT 日立 NEC 日産 三菱電機 自動車・電機など各社の状況まとめ | NHK | 春闘
出典:前年を上回る回答引き出し!中小組合も5%超え! 有期・短時間・契約等労働者(時給)の賃上げ率は6%超え! ~2025 春季生活闘争 第1回回答集計結果について~
出典:33年ぶりの5%超え! ~2024春季生活闘争 第7回(最終)回答集計結果について~
ベースアップの基本を押さえておこう
ベースアップとは従業員全員の賃金水準を引き上げることです。勤続年数や成果に応じて定期的に賃金が上がる定期昇給とは区別されます。
労働組合の活動における最も大きなテーマは、継続的な賃金引き上げです。ベースアップや定期昇給の意味・現状を理解し、今後の組合活動に生かしていきましょう。