労使協議会の質問例。労使協議の意味や団体交渉との違いも解説

労使協議は団体交渉とは別に実施される労使間の話し合いです。要求の実現を前提とする団体交渉とは違い、労使協議はさまざまなテーマについて意見交換を行います。労使協議会ではどのようなことを聞けばよいのか、質問項目や質問例を紹介します。
労使協議の基礎知識
労働組合が存在する企業の大半では労使協議機関が設置されており、組合が積極的に労使協議会を活用しています。労使協議の意味や団体交渉との違いなど、まずは労使協議の基本をおさらいしておきましょう。
労使協議とは
労使協議は、より幅広いテーマを扱う企業と労働組合の話し合いです。労使(労働者と使用者の両方)が協力して情報の共有や認識のすり合わせを行うことを主な目的としています。
労使協議に法的な根拠はなく、労使間の合意に基づいて開催されます。年間一定数以上の労使協議会の開催を、労働協約などに盛り込んでおくのが一般的です。
労使協議を開催する労働組合のメリットは、日々の労働問題や職場環境に関する意見を企業に伝えやすくなることです。具体的な改善が実現すれば、労働者のモチベーションアップにもつながるでしょう。
企業側にとっても、経営側が気づきにくい現場の問題や課題を把握できるメリットがあります。また、労使協議で問題が解決すれば団体交渉まで発展しにくいこともメリットです。
労使協議と団体交渉の違い
団体交渉は、要求の実現を前提に行われる労使間の話し合いです。法的根拠がない労使協議と違い、団体交渉は憲法第28条や労働組合法第6条で組合に権利が保障されています。
団体交渉では、経営施策に関する諸問題が義務的団交事項に該当しないため、話し合いのテーマとして扱えません。そのため、労使協議では労働条件や賃金以外に、経営政策や企業運営上の諸問題を取り扱うケースも多くなります。
労使協議では、企業は組合の要求に対し実現を義務付けられていませんが、団体交渉では労使間で必ず合意または結論を出す必要があります。合意に至らない場合には、争議行為に発展する可能性があります。
労使協議は団体交渉の手前で行われる話し合いの場です。労使協議で良好な労使関係を築いておけば、団体交渉による対立の機会を減らせます。
労使協議会で取り扱うテーマ
労使協議ではさまざまなテーマを議題として取り上げることが可能です。具体的には次のようなテーマが取り扱われています。
- 賃金体系や昇給基準
- 福利厚生や労働環境
- 人事異動やキャリア形成
- 労働時間や働き方改革
- 経営方針・生産計画
企業に聞きたいことや要求したいことは、基本的に何でも労使協議のテーマとして取り扱えます。必ず改善につながるわけではありませんが、組合側の思いを伝えるだけでも大きな効果があるといえるでしょう。
労使協議でのよくある質問項目
労使協議はお互いに忙しい中で実施されるため、話し合いを有意義なものにするためにも、事前に協議の目的や論点を明確にしておくことが大切です。よくある質問項目を把握し、テーマを設定する際に役立てましょう。
賃金体系や昇給基準について
労使協議で取り扱われるテーマとして最も多いのが、賃金水準の改訂や一時金です。また、昇給基準などを定める賃金制度の見直しも、労使協議でよく取り扱われています。
賃金体系や昇給基準に関する項目は、団体交渉でもメインになりやすいテーマです。労使協議の賃金や一時金に関する協議内容によっては、団体交渉に発展するケースもあります。
福利厚生や労働環境について
福利厚生も労使協議で取り扱われることが多いテーマです。現行制度の見直しや項目の追加など、福利厚生をより充実した内容にするための質問を行えます。
また、労働環境の改善も従業員の健康・安全や働きやすさにつながる重要なテーマです。安全衛生についてどのように考えているのか、業務効率化を図れるツールを導入できないか、といった質問ができるでしょう。
人事異動やキャリア形成について
労使協議会で人事異動のテーマを扱う場合は、部署異動・昇進昇格・転勤・出向などに関する質問を行えます。配置や業務内容の変更は、労働環境にも関わる問題です。
またキャリア形成の質問では、企業が従業員のキャリアアップについてどのように考えているのか、資格取得や研修参加の補助を出せないかといった内容を話し合えるでしょう。
労働時間や働き方改革に関して
労働時間・休日・休暇に関するテーマは、労使協議で頻繁に取り扱われます。労働条件の改善は団体交渉の義務的団交事項に該当するため、企業側もより真剣に対応するでしょう。
働き方改革に関するテーマも、労働者にとって大きな問題です。特に、テレワークやフレックスタイム制といった多様な働き方の導入は、多くの労働者が気になっているでしょう。
トヨタの労使協議会に見る具体的な質問例
2019年に開催されたトヨタ自動車株式会社の労使協議会を例にとり、実際に労働組合が行った4つの質問を紹介します。組合が会社側に訴えたのは、いずれもそれまで陽が当たりにくかった課題です。
賃金や労働条件以外にもさまざまな質問ができることを、トヨタの労使協議会における具体的な質問例で確認しましょう。
※出典:「トヨタ春交渉2019」~本音で話そう~ | トヨタイムズ | コーポレート | グローバルニュースルーム | トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト
活躍の幅が職種により限定されている
トヨタの労働組合は労使協議会において、組合員全体の1割弱にあたる一般職の処遇改善を訴えました。職場を下支えしている重要な存在であるのにもかかわらず、事務系や技術系のようにキャリアの細かい節目がないため、育成や動機づけが難しくモチベーションに差が出てしまっていたのです。
企業側にとってもマネジメントがやりづらい部分があるはずだとして、一般職の育成や動機づけにつながる施策の検討を促しました。
制度適用が職種により異なっている
トヨタでは当時、一般職や技能職が配偶者の都合により退職した場合、せっかく積み上げてきたキャリアを手放すしか選択肢がありませんでした。
企業によっては、配偶者の転勤や介護により退職した社員に対し、一定条件下で再雇用申請の機会を提供する「キャリアカムバック制度」を導入しています。トヨタの労働組合は労使協議会で、キャリアカムバック制度の適用範囲の拡大を訴えました。
学歴や採用形態により処遇差がある
トヨタの労使協議会では次のようなケースが紹介されました。
- 期間従業員から正社員に登用されたメンバーと最初から正社員として働いているメンバーの賃金差が埋まらない
- 学歴に応じて昇格の順番が決まっているのではないかと感じることがある
- 正社員に適用されている食堂の費用補助が期間従業員にはない
これらを学歴や採用形態による処遇差の問題として訴えています。
個人的な事情を相談できる窓口がない
当時のトヨタには、個人的な問題を相談できる窓口がありませんでした。介護や家族ケアをしている従業員が働き方の相談をしたくても、どうすればよいのか分からなかったのです。
トヨタの労働組合は、個人的な事情について最適な対処法を相談できる窓口やサポート体制をつくってもらいたいと、労使協議会で訴えました。
労使協議会では多様なテーマの質問が可能
労使協議会は労使間でさまざまなテーマを取り扱える話し合いの場です。団体交渉とは異なる労使交渉であり、意見交換や認識のすり合わせを主な目的としています。
労使協議会を通して企業と良好な関係を築いておけば、団体交渉を経ずに課題の改善につなげることも可能です。有意義な話し合いになるよう、協議前には適切なテーマを選定しましょう。