労働協約とは?他の労働関係ルールとの違いや拡張適用について解説

労働協約は、労働組合と企業の間で締結される、労働条件に関する取り決めのことです。非常に強い効力を持ち、就業規則や個別の労働契約よりも優先されます。労働協約について知っておきたい基本を理解しましょう。
労働協約の基礎知識
労働協約とは具体的にどのようなものなのか、まずは概要を解説します。労働協約に定められる主な項目も確認しておきましょう。
労働協約とは
労働協約とは、企業と労働組合の間で締結される約束事のことです。団体交渉で決められた労働条件などに関するルールを定め、使用者の双方の署名または記名押印があることで効力が発生します。
労働協約の法的根拠となっているのは、労働組合法第14条です。就業規則や個別の労働契約に優先する非常に強い効力を持ち、労働協約に違反する就業規則や労働契約はその部分が無効になります。
労働協約の名称に決まりはなく、「合意書」「妥結書」「覚書」などと呼ぶことも可能です。団体交渉で合意に達した事項を書面に作成し、労使双方が記名押印すれば、労働協約が法的に有効なものとして成立します。
労働協約の適用範囲は、原則として組合員のみです。ただし、一定の条件を満たしていれば拡張して適用されます。
労働協約に定められる主な項目
労働協約の項目をどのように定めるのかは、当事者の自由です。その内容は、労働者の待遇に関する基準を定めた「規範的部分」と、労使関係について定めた「債務的部分」に大きく分けられます。
労働協約で一般的に定められる項目の例は次の通りです。
- 総則に関する項目:労働協約の目的や適用範囲、組合員の範囲、ショップ制など
- 組合活動に関する項目:就業時間中の組合活動、会社施設の利用、組合専従者など
- 人事に関する項目:採用、人事異動、解雇・雇い止め、賞罰・懲戒、退職など
- 労働条件に関する項目:賃金、休日、休暇、育児休業・介護休業、出張など
- 災害補償に関する項目:療養補償、休業補償、傷病補償、障害補償など
- 安全衛生に関する項目:災害予防、安全施設、安全衛生教育、健康診断など
- 福利厚生に関する項目:福利厚生施設、住宅融資、慶弔見舞金など
- 団体交渉に関する項目:交渉機関、交渉担当者、交渉方式、交渉時間など
- 争議行為に関する項目:争議行為の予告、争議中の団体交渉や賃金不払いなど
労働協約と他の労働関係ルールとの違い
労働協約と似たルールには、労使協定・就業規則・労働契約があります。労働協約とそれぞれの違いを押さえておきましょう。
労働協約と労使協定の違い
労使協定とは、特定の労働条件について法定基準の適用除外を定めたものです。代表例としては、時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)やフレックスタイム制に関する労使協定などが挙げられます。
労働協約の主な目的が労働条件の改善であるのに対し、労使協定の主な目的は労働基準法の例外を定めることです。また、労働協約は原則として組合員にしか適用されませんが、労使協定は全従業員に適用されます。
労働協約と労使協定は、締結当事者にも違いが見られます。労働協約の締結当事者は会社と労働組合、労使協定の締結当事者は会社と従業員の過半数代表者(労働組合を含む)です。
労働協約と就業規則の違い
労働協約と就業規則は、いずれも職場の労働条件を定めたものです。ただし、就業規則は基本的に会社が作成します。
内容について従業員に意見を求める必要はあるものの、最終的に内容を決定したり変更したりするのは会社です。労働組合や過半数代表者との合意までは必要ありません。
就業規則の根拠となるのは労働基準法です。全従業員に適用されますが、労働協約に違反する部分は無効となります。
労働協約と労働契約の違い
労働契約とは、会社と従業員が個別に締結する取り決めです。給与や労働時間などの条件を、労働契約法に基づいて規定します。労働協約と労働契約は、目的・適用範囲・根拠法などさまざまな部分が異なります。
会社と従業員個人の間で労働条件を決める場合、どうしても従業員の立場が弱くなりがちです。労働協約は労働契約に優先するため、従業員が結束して労働協約の締結に向けて活動することは、従業員一人一人を守ることにもつながります。
労働協約の拡張適用
労働協約の適用範囲は原則として組合員のみですが、一定の条件を満たせば組合員以外にも拡張されます。労働協約の拡張適用について理解を深めましょう。
一般的拘束力
労働協約の一般的拘束力とは、一定の条件下で組合員以外の労働者にも労働協約が適用されるルールです。事業所の労働者の4分の3以上が組合に加入している場合、労働組合法第17条に基づいて非組合員にも労働協約が適用されます。
労働協約は組合の努力の結晶であり、本来なら改善後の労働条件は組合員のみに適用されるべきです。一方で非組合員が不公平感を抱きかねないため、法律では職場の公平性の確保を重視し、一定の条件下で労働協約が職場全体に及ぶように規定しています。
地域的拡張適用
特定の地域において、同種の労働者の約4分の3以上が一つの労働協約の適用を受けている場合、労働組合法第18条に基づき非組合員にも労働協約が適用されます。これが労働協約の地域的拡張適用です。労働組合がない会社で働く従業員を守ることを目的としています。
UAゼンセンの例を挙げると、大型家電量販店で働くフルタイム労働者について、年間所定休日数の最低日数を111日以上とすることが地域的拡張適用を受けています。適用地域は青森県・岩手県・秋田県の全域に及び、適用期間は2023年6月1日~2025年5月31日です。
出典:連合|より良い職場づくりポータル – 労働協約って何?
労働協約に関するよくある質問
労働協約について考える際に生じやすい疑問と回答をまとめました。団体交渉に携わる組合役員は、ひと通り目を通しておくとよいでしょう。
労働協約の有効期間は?
労働協約に有効期間を定めなければならない決まりはありません。ただし、有効期間を定める場合、法律上の上限は3年です。3年を超える期間が定められている場合も、有効期間は3年とみなされます。
また、有効期間を定めない労働協約においては、労使のいずれか一方による90日前の予告でいつでも解約が可能です。解約の予告を行う際は、署名または記名押印した文書の相手方への提出が必要です。
会社が労働協約に違反したらどうなる?
会社が労働協約に違反した場合、労働基準法第92条に基づき、30万円以下の罰金が科される可能性があります。また、労働組合法第7条違反(不当労働行為)により申し立てがあった場合も、何らかのペナルティを科されることがあります。
なお、労働協約は就業規則や個別の労働契約に優先しますが、法律は労働協約に優先します。労働協約はあくまでも労使間の取り決めにおいて最優先されるにすぎません。
出典:労働基準法 第九十二条 | e-Gov 法令検索
出典:労働組合法 第七条 | e-Gov 法令検索
執行委員長が単独で労働協約を締結できる?
労働組合の執行委員長が独断で労働協約の締結当事者になることはできません。労働組合の総会での承認決議を経た上で、労働協約の締結に臨む必要があります。
総会での承認決議を経ずに締結した労働協約は無効です。労働協約締結の際は、必ず組合で総会を実施しましょう。
労働協約について理解を深めよう
労働協約は会社と労働組合の間で締結する取り決めのことです。非常に強い効力を持ち、就業規則や個別の労働契約に優先します。
労働組合の活動における大きなテーマは、組合員に有利な形で労働協約を結ぶことです。意味や重要性などをしっかりと理解し、今後の組合活動に生かしていきましょう。