労働組合の争議行為とは?認められる条件やリスク、必要な手続き

労働組合と会社の団体交渉がうまくいかない場合は、争議行為に発展するケースがあります。争議行為にもルールがあり、正当な争議行為として認められるためには、一定の条件を満たしていなければなりません。知っておきたい争議行為の基礎知識を解説します。

目次

労働組合の争議行為とは

そもそも争議行為とはどのようなものを指すのでしょうか。近年の争議行為の発生状況と併せて見ていきましょう。

争議行為の意味

労働関係調整法第7条では、争議行為を「労働関係の当事者が主張を貫徹するために行う行為またはそれに対抗する行為」かつ「業務の正常な運営を妨げる行為」であるとしています。労働組合が行う争議行為の代表例は次の通りです。

  • ストライキ(同盟罷業):労働関係事項に関する主張を貫徹するため労働者が集団で仕事を放棄すること
  • サボタージュ(怠業):労働者が意図的に仕事の質や量を低下させること

他にも、出張拒否や一斉休暇闘争、時間外労働の拒否などがあります。

ロックアウトなど使用者側の対抗行為も争議行為に該当しますが、本記事では労働組合側の行為のみを争議行為として解説します。

出典:労働関係調整法 第七条 | e-Gov 法令検索

近年の争議行為の発生状況

独立行政法人労働政策研究・研修機構の資料によると、争議行為の発生件数は近年減少傾向にあります。争議行為が多かった1970年代は年間の発生件数が1万件近くに達することもありましたが、2003年以降は1,000件以下です。

日本で争議行為の発生件数が減っている大きな理由が、会社と労働組合がさまざまな事項について話し合って合意を取る「労使協議制度」の定着です。

団体交渉では労使間で結論を出す必要があり、合意に至らない場合は争議行為に発展する可能性がありますが、労使協議では要求に対する結論を出す必要がありません。そのため、近年は団体交渉の手前で労使協議が行われるケースが増えています。

出典:図2-1 労働争議|早わかり グラフでみる長期労働統計|労働政策研究・研修機構(JILPT)

正当な争議行為として認められる条件

正当性を有する争議行為でない場合、後からトラブルに発展する恐れがあります。正当な争議行為として認められる条件は次の点です。

  • 労働組合が主体となって実施
  • 労働組合の総意に基づいて実施されている
  • 労働条件の維持・改善が掲げられている
  • 手段や態様が正当なものである
  • それまでに団体交渉を尽くしている
  • 争議行為が禁止されている産業ではない

出典:労働組合のストライキの行い方、注意すべき点 | かながわ労働センター

争議行為の権利保障

正当な争議行為として認められる場合は、以下の権利が保障されます。

  • 犯罪に該当する行為を行っても刑法で罰せられない(労働組合法第1条第2項、刑法第35条)
  • 争議行為により会社が損害を受けても労働者に賠償を請求できない(労働組合法第8条)
  • 会社はストライキを理由に労働者を解雇・異動できない(労働組合法第7条)

争議行為による組合側のリスク

争議行為に参加したことで仕事をしなかった場合、ノーワーク・ノーペイの原則により無給となります。ただし、労働組合側で闘争資金を組合員から徴収しているなら、組合から生活費が支給されるでしょう。

また、争議行為中は会社にロックアウトで対抗され、事業所が閉鎖されるケースもあります。労使間の交渉態度や争議行為の様態によっては、会社も適法なロックアウトを行うことが可能です。

争議行為で必要な労働組合の手続き

争議行為を行う際は、事前の手続きを済ませておく必要があります。争議行為で必要な労働組合の手続きを見ていきましょう。

争議行為の予告

公益事業において労働組合が争議行為を行う場合、争議行為を行う10日前までに労働委員会と厚生労働大臣または都道府県知事に通知する必要があります。公益事業における争議行為は日常生活への影響が大きいためです。

労働関係調整法第8条では、争議行為の予告が必要な公益事業を次の4つとしています。

  • 運輸事業
  • 郵便・電気通信の事業
  • 水道・電気・ガス供給の事業
  • 医療・公衆衛生の事業

出典:労働関係調整法 第八条 | e-Gov 法令検索

発生届の提出

労働組合が争議行為を行った場合は、労働組合が直ちに労働委員会または都道府県知事に届け出なければなりません。発生届の提出の対象となるのは全ての争議行為です。

争議行為が複数の都道府県で発生している場合や、全国的に重要な問題である場合は、中央労働委員会に届け出る必要があります。

出典:厚生労働省:争議行為発生届について

争議行為発生後の労働組合に必要なこと

争議行為に発展してしまった場合に労働組合が意識すべきことを紹介します。労使間の話し合いを継続することや、違法行為を行わないことが重要です。

労使間の話し合いを継続する

団体交渉を尽くした結果、争議行為に発展した場合も、労使間の話し合いは継続しましょう。争議行為はそれ自体が目的ではなく、あくまでも要求の実現や解決に近づけるための手段であるためです。

労使間での話し合いによる解決が難しい場合は、労働委員会に仲介してもらうこともできます。労働委員会は、労使紛争の解決にあたる公平な第三者機関です。

違法行為を行わない

他者の生命・身体の安全を脅かす暴力行為など、違法行為を伴う争議行為を行った場合、損害賠償請求や刑事処分などにつながりかねません。また、違法な争議行為に参加した従業員は、懲戒処分を受ける可能性があります。

争議行為の権利保障を受けるためには、適法に争議行為を進めていくことが重要です。

万が一のケースに対する備えを

争議行為は労働組合に認められている権利の一つです。近年は労使協議制度が定着していることもあり、発生件数は昔に比べ大幅に減少しています。

ただし、団体交渉がうまくいかなかった場合は、争議行為を選択せざるを得ないこともあるでしょう。争議行為について理解を深め、万が一のケースに対する備えをしておくことが大切です。

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この記事を書いた人

労働組合にて専従(中央執行書記長)を経て、現職。

<セミナー登壇歴>
◼︎日本経済新聞社
『労組をアップデートせよ 会社と並走し、 組合員に支持される労働組合の作り方』
『労働組合の未来戦略 労組の価値向上につながる 教育施策の打ち方』

<メディア掲載>
◼︎日本経済新聞社
『​​​​団体契約を活用して労組主導で社員の成長を支援 デジタルを駆使して新しい組合像を発信する』

◼︎NIKKEI Financial
『「知らない社員」減らす 労組のSNS術』

◼︎朝日新聞社
『歴史的賃上げ裏腹 悩む労組 アプリ活用』

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