労働組合の積立金にはどのような種類がある?それぞれの使い道も解説

労働組合の積立金にはいくつかの種類があり、さまざまな目的に応じて徴収されます。適切に運用されれば、組合の将来の備えになったり、組合員に還元したりできるでしょう。労働組合の積立金の種類とそれぞれの目的を解説します。
労働組合の積立金の種類
労働組合の積立金には、闘争資金・福利厚生資金・投資資金などがあります。実際にどのような目的で徴収されているのか、それぞれの目的や例を見ていきましょう。
闘争資金
闘争資金とは、ストライキに備えることを主な目的として徴収される積立金です。ストライキ中はノーワーク・ノーペイの原則に基づき、会社が組合員に給与を支払わなくてもよいため、賃金を受け取れない組合員の生活を守るために使われます。
近年はストライキ自体が減少しており、闘争資金の必要性が議論されることもあります。しかし闘争資金はいざというときの組織の体力を示すものでもあり、会社に対する抑止力にもなるため、現在も多くの労働組合が闘争資金を積み立てているのが実情です。
また、闘争資金はストライキ支援金としての使い道以外に、裁判費用や労働委員会への申し立て費用として使われるケースもあります。
福利厚生資金
組合によっては、福利厚生資金として組合員から積立金を集めている場合もあります。福利厚生事業に力を入れている組合は多く、積立金を以下のようなものに充てているのが一般的です。
- 結婚・出産の祝い金や慶弔見舞金などライフイベントごとの給付金
- レジャー施設や旅館・ホテルなどで使える割引サービス
福利厚生資金として積立金を徴収すれば、さまざまな形で組合員に還元できるため、勧誘活動で組合の魅力をアピールする際にも役立つでしょう。
投資資金
積立金の使い道として近年増えているのが、投資資金としての運用です。労働組合自らが組合員のために投信を立ち上げ、長期運用による資産形成を目指して活動しています。
労働組合の投資自体は昔からありましたが、先が見えない近年の状況を不安視し、「労働組合として退職金や年金の代わりをつくれないか」という発想から投信を立ち上げる組合が増えているのです。
投資に失敗すれば組合員から集めたお金がなくなるリスクもあるため、組合によっては勉強会を開いたり担当者がFPの資格を取得したりして、組織としての意識を高めています。
労働組合の積立金のよくある疑問
積立金制度の導入を検討する際に生じがちな疑問と回答をまとめました。組合の担当者は以下に挙げる内容にひと通り目を通し、制度の整備に役立てましょう。
積立金の徴収方法は?
労働組合の積立金は、毎月の給与から天引きで組合費と併せて徴収されるのが一般的です。労使協定が締結されていれば、労働組合の組合費を給与から控除できます。
なお、「第20回労働組合費に関する調査報告」によると、労働組合の組合費の平均は1人当たり月額約5,066円です。このうち、積立金を徴収している場合は毎月数百円が積立金として組み込まれているケースが多いようです。
積立金の金額の決定プロセスは組合により異なります。組合員から集めた意見を参考に、総会などの場で決定されるのが一般的です。
組合脱退時は積立金の返却が必要?
組合員から徴収した積立金は、脱退した組合員に返却するケースとしないケースがあります。労働組合に返却の義務はないため、基本的には自由に決めることが可能です。
過去の判例には、「闘争資金は労働組合の財産であり、組合員からの返却請求に応じる必要はない」というものがあります。ただし、脱退時に積立金を返却している組合も存在する以上、返却しないルールにすると組合としての魅力が下がりかねません。
また、返却するかしないかにかかわらず、積立金については組合規約に明示しておくことも重要です。あらかじめルールを周知しておけば、積立金に関するトラブル発生の予防につながります。
出典:【労働組合を脱退した組合員が,同組合に積み立てた「ストライキ生活基金」について返還を求めたところ,同基金は組合財産であり返還を求めることはできないとして,請求を棄却した事例】
積立金の徴収を義務化できる?
労働組合法第2条では、労働組合に自治を認めています。「組合員は積立金を支払わなければならない」といった文言を組合規約に明示すれば、積立金の徴収を義務化することは可能です。
ただし、組合規約はあくまでも組合の中だけで通用するルールであり、労働組合が積立金を徴収してもよいという法的な根拠があるわけではありません。
また、積立金の徴収を組合規約で義務化する場合は、使途を明確にして組織運営の透明性を高めることも大切です。積立金がいくらプールされているのかなどを定期的に公開することで、組合員からの信頼を得やすくなります。
労働組合の積立金は適切な運用を
労働組合の積立金の種類には、闘争資金・福利厚生資金・投資資金といったものがあります。積立金の返却については自由に決められるほか、組合規約に明示すれば積立金の徴収の義務化も可能です。
ただし、お金に関することは組合員が気になる部分でもあるため、分かりやすい形で目的や現状を伝える必要があります。組合員が不満をためないよう、積立金は適切な運用を心掛けましょう。